腐りかけの果実

しゃむしぇる

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第一章 一節 二人の傭兵

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 二人は日本につくと、スーツの男から一つの端末と手帳を二つ手渡される。

「今後連絡はこの端末で行います。GPS発信機などは取り付けていませんのでご安心ください。」

「ん、この手帳は?」

「銃火器携帯許可証です。爆発物や銃火器を持ち歩く際には必ず携帯してください。」

「なるほど、こいつがアタシたちの免罪符ってわけだ。」

「現在あなた方は政府の特務部隊という肩書にしてあります。もし何かトラブルが起きた場合それを見せれば大抵のことは片が付くでしょう。」

「ほぉ~、まぁ大事に持っとくわ。」

 そう言いながらエリーはそっとメイのほうにそれを渡す。

「結局管理は私なのね。はいはい、失くされるよりかはマシだわ。」

 メイは半ば呆れながらもそれを受け取ると、バッグの中へと仕舞う。それを確認したスーツの男はくるりと二人に背を向ける。

「では私はこれにて失礼いたします。」

 そう淡々と言ったスーツの男にエリーが言う。

「おいおい、名前も教えてくんねぇのか?」

「私の名前も機密事項ですので。」

 振り返ることもなくスーツの男はそう言うと、彼のことを迎えに来ていた車でさっさと行ってしまう。それを見送ったエリーはやれやれとため息を吐いた。

「ったく、不親切な野郎だぜ。」

「ま、名前も知らないぐらいの関係でいいんじゃない?どうせ必要になったら私が調べればいいだけだし。」

「そうだな。ほんじゃアタシ達もとっととここからずらかるか。」

 そして二人が空港から移動を始めようとした時だった。突然二人の前に一台の黒いセダンが止まる。それを見たエリーの表情が歪んだ。

 運転席の窓が開くと、そこからスキンヘッドでサングラスをかけた男が顔を出す。

「げ、バリーかよ。」

「なっはっは!!久しぶりだなぁ、エリー!!それにメイちゃん。」

「お久しぶりですバリーさん。」

 運転席で車を運転していたのはバリーという男。エリーとメイとは長い付き合いがある男だ。

「ちっ、やっぱりアタシ達が来るのはわかってやがったか。」

 少し不愉快そうに舌打ちをしたエリー。そんな彼女に追い打ちをかけるようにバリーは言う。

あねさんは二人の活躍はもちろん、どこで何をしていたのかさえ全部知ってるぞ?おかげで俺もこうやって二人を迎えに来れたってわけだ。」

「マジでどっからアタシ達の情報仕入れてんだよ。」

「そいつは俺にもわからねぇな。ま、何はともあれ乗りな二人ともあねさんが待ってるからよ。」

 バリーに促されるがまま二人は車に乗り込むと、彼は車を発進させた。その車中でメイはスーツの男から渡された端末を分解していじくりまわしていた。

「ん、やっぱりあった!」

 分解された端末の中から小さなパーツを手に取ったメイは、それを車の窓を開けて投げ捨てる。その様子を見ていたエリーがメイへと問いかけた。

「GPSか?」

「うん、ご丁寧に盗聴器付きのね。」

「はっ、さすがはHENTAIの国だぜ。政府のお偉いさんってやつらもやることがきたねぇ。」

 そう罵りながらエリーが煙草に火をつけると、バリーが運転席から声をかけてきた。

「エリー、早速で悪いがそのHENTAIなやつらが俺らのケツ追っかけてきてるみたいだ。」

「あぁ、わかってる。」

 エリーは懐からハンドガンを一丁取り出すと、銃口の先に銃声を小さくするサプレッサーを取り付けた。そしてスライドを引いて弾を込めると、バリーへと合図を送る。

 その合図でバリーは車通りも人通りも少ない路地へとわざと入り込む。すると、彼女たちを尾行していた車はのこのこと後を追いかけてきた。バリーは周りに人も車もいないことを確認するとエリーへと向かって言った。

「今だエリー。」

「あいよ。」

 バリーのその言葉と同時にエリーは車から上半身を乗り出すと後を追いかけてきていた車に向かってハンドガンを構えた。

「ドッグファイトはおしまいだぜ?」

 サプレッサーによって極限まで小さくなった銃声が二発響くと、一発は尾行していた車の前輪タイヤをパンクさせ、もう一発はフロントガラスのど真ん中に突き刺さり、蜘蛛の巣状にフロントガラス全体にヒビが入る。

 それによって視界も失われ走行能力も失われてしまった尾行の車は路肩に停まらざるをえず、停車した。

 それを確認したバリーは一気にスピードを上げる。

「ナイスだエリー、射撃の腕は相変わらずだな!」

「はっ、こちとら数時間前まで戦争やってたんだぜ?舐めんなよバリー。」

「なっはははは、そうだったなぁ!」

 尾行の車を一気に振り切ると、バリーはハンドルの横に設置してあるボタンを押した。すると、車の前と後ろでカチャンと何かが切り替わるような音が鳴る。

「今ナンバープレートを変えた、これで追跡はもうできないだろう。さ、あとはあねさんとこまで突っ走るぞ。」

 そして難なく追跡も振り切った彼女たちは、バリーの言うあねさんという存在のいる場所へと向かっていくのだった。
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