4 / 88
第一章 一節 二人の傭兵
1-1-1
しおりを挟む
時は現代、西暦2085年
突如として蔓延した凶悪な疫病により世界各国にて大規模なロックダウンや物流の制限などが行われ、経済難の数か国では危機的な食糧難に陥っていた。
食糧難に陥った国は自国での食料の生産が追い付かず、輸入にも頼れないため最終手段として隣接している国へと進軍し食料を奪い取るという手段に出始める。その結果世界各地で戦争が勃発していた。
その食料をめぐるとある二国間の戦争の最中に一人雇われの日本人の傭兵が紛れ込んでいた。
彼女がいる場所は国境を挟んだ密林地帯、戦争中の二か国の兵士たちが隠れ犇めき合う最前線。彼女は地面に穴を掘り、その中に落ち葉と共に身を隠してある瞬間を待っていた。
(…………。)
本来ならば耳をすませば聞こえてくるであろう鳥や動物の鳴き声はこの密林では聞こえない。代わりに聞こえるのは甲高い銃声と、一瞬にも満たない悲鳴。
情人ならばたった一人でこんな場所にいれば数時間もせずに気が狂うだろう。だが、彼女は一人にもかかわらず冷静に、じっとこの場所で丸一日近くあるものを待っていた。
ガタガタ……。
突然響いてきた何かの音。それは彼女が丸一日潜伏し、待ち続けていたものだった。彼女が待ち続けていたもの……それは敵の補給部隊。しかし待望のものが来たにもかかわらず彼女は微動だにしない。
そして彼女の目の前を敵国の補給部隊が通り過ぎようとしていた。しかし次の瞬間、補給物資を積んだ車を護衛していた兵士が行進の最中にあるものに足を引っかけてしまう。それと同時に彼らの頭上からピンの抜かれたフラッシュバンが降り注ぎ、空中で激しい光と爆音をまき散らす。
「Oh!?」
激しい光に兵士たちの視界が奪われた瞬間、彼女は穴の中から飛び出した。いつの間にか彼女の目にはサングラスがかけられていた。
そして流れるように腰からサバイバルナイフを抜くと一番近い兵士の喉に深く突き刺した。残る護衛の兵士は三人。その誰もがすでに視界を取り戻し、仲間がやられていることに気が付く。彼らも訓練された兵士だった。故にそれからの行動は早く、すぐに携帯していたマシンガンで彼女のことを撃つが、やられた兵士を盾にされ物陰に隠れられる。
「21、18、21……。」
ぽつりと彼女は三つ数字をつぶやくと腰のホルダーからハンドガンを抜きセーフティーを解除した。それと同時に兵士のうちの二人がすぐさまマシンガンのリロードを始める。彼女は三人から撃たれた弾丸の数を数え、彼らのリロードのタイミングを見計らっていたのだ。
「じゃあまずはお前からだな。」
物陰から横に一気に転がると、弾をまだ残していた兵士の頭をハンドガン一発で撃ちぬいた。そしてすぐに標準を切り替えリロードが完了する間際の残りの兵士の頭を続けざまに撃ちぬく。
「ふぅ~……。」
彼女が一つ息を吐き出すと、補給物資を積んだ車が今にも走り出そうとしていた。
「悪いが逃がさねぇよ。」
弾倉に残った弾でタイヤを撃ち抜きパンクさせると、制御を失った車は横転してしまう。その車に彼女がハンドガンのリロードを完了させ近づくと、中から運転していた兵士がハンドガンを構えて現れる。しかし引こうとした引き金がピタリと止まった。
「あ~、焦りすぎだ。セーフティー外し忘れてるぜ?」
そう兵士に語り掛けながら、彼女は容赦情けなくその兵士の頭をハンドガンで撃ちぬいた。
「任務完了っと。さぁ~、一服一服。」
そして彼女が懐から煙草を取り出し火をつけたところで耳掛け式の小型の無線機に無線が入った。
『あ~、あ~。こちらメイ。エリー聞こえる?』
「聞こえてるぜ。」
『ならオッケー、例の補給部隊はもうやっちゃった?』
「あぁ、今頃は閻魔様に天国か地獄か決められてるころだと思うぜ。」
敵国の補給部隊を一人で壊滅させた彼女の名前はエリー。無線の先で彼女に語り掛けているのはオペレーターのメイ。二人はタッグで傭兵稼業を営んでいるのだ。
『流石エリーね仕事が速い。でもね、残念なお知らせが一個あるわ。』
「残念な知らせ?」
『うん、今回のクライアントがバックレたのよ。』
「はぁ!?それじゃあアタシが今までここで待ってた時間は!?」
感情を露にしながらエリーは無線の先にいるメイに問いかける。
『無線越しに怒鳴らないでよ!!こっちだって困ってるんだから!!』
しかし無線から返ってきたのはエリーをも黙らせるメイの怒鳴り声だ。それに耳をキーンとさせながらエリーはメイに再び問いかけた。
「あ~はいはい悪かった、それでどうすんだ?」
『ひとまずそこから離れたほうがいいわ。もうすぐその物資を狙ってクライアント側の兵士が来るはずよ。』
「了解、ほんじゃただ黙って渡すのも癪だし。」
エリーは再びハンドガンに手をかけると輸送車のガソリンタンクを撃ち抜いた。するとちょろちょろとガソリンがあふれ出てくる。
「煙草の火を消すにはちょうどいいぜ。」
そして彼女はそのあふれ出たガソリンへと向かって未だ火種の残る煙草をポイと投げ捨てた。するとそれに引火して物資の積んであった輸送車はあっという間に火に包まれた。
「ほんじゃおさらば!!」
その場から彼女が離脱を開始した直後、ドーン!!と一際大きな爆発音が密林の中に鳴り響いたのだった。
突如として蔓延した凶悪な疫病により世界各国にて大規模なロックダウンや物流の制限などが行われ、経済難の数か国では危機的な食糧難に陥っていた。
食糧難に陥った国は自国での食料の生産が追い付かず、輸入にも頼れないため最終手段として隣接している国へと進軍し食料を奪い取るという手段に出始める。その結果世界各地で戦争が勃発していた。
その食料をめぐるとある二国間の戦争の最中に一人雇われの日本人の傭兵が紛れ込んでいた。
彼女がいる場所は国境を挟んだ密林地帯、戦争中の二か国の兵士たちが隠れ犇めき合う最前線。彼女は地面に穴を掘り、その中に落ち葉と共に身を隠してある瞬間を待っていた。
(…………。)
本来ならば耳をすませば聞こえてくるであろう鳥や動物の鳴き声はこの密林では聞こえない。代わりに聞こえるのは甲高い銃声と、一瞬にも満たない悲鳴。
情人ならばたった一人でこんな場所にいれば数時間もせずに気が狂うだろう。だが、彼女は一人にもかかわらず冷静に、じっとこの場所で丸一日近くあるものを待っていた。
ガタガタ……。
突然響いてきた何かの音。それは彼女が丸一日潜伏し、待ち続けていたものだった。彼女が待ち続けていたもの……それは敵の補給部隊。しかし待望のものが来たにもかかわらず彼女は微動だにしない。
そして彼女の目の前を敵国の補給部隊が通り過ぎようとしていた。しかし次の瞬間、補給物資を積んだ車を護衛していた兵士が行進の最中にあるものに足を引っかけてしまう。それと同時に彼らの頭上からピンの抜かれたフラッシュバンが降り注ぎ、空中で激しい光と爆音をまき散らす。
「Oh!?」
激しい光に兵士たちの視界が奪われた瞬間、彼女は穴の中から飛び出した。いつの間にか彼女の目にはサングラスがかけられていた。
そして流れるように腰からサバイバルナイフを抜くと一番近い兵士の喉に深く突き刺した。残る護衛の兵士は三人。その誰もがすでに視界を取り戻し、仲間がやられていることに気が付く。彼らも訓練された兵士だった。故にそれからの行動は早く、すぐに携帯していたマシンガンで彼女のことを撃つが、やられた兵士を盾にされ物陰に隠れられる。
「21、18、21……。」
ぽつりと彼女は三つ数字をつぶやくと腰のホルダーからハンドガンを抜きセーフティーを解除した。それと同時に兵士のうちの二人がすぐさまマシンガンのリロードを始める。彼女は三人から撃たれた弾丸の数を数え、彼らのリロードのタイミングを見計らっていたのだ。
「じゃあまずはお前からだな。」
物陰から横に一気に転がると、弾をまだ残していた兵士の頭をハンドガン一発で撃ちぬいた。そしてすぐに標準を切り替えリロードが完了する間際の残りの兵士の頭を続けざまに撃ちぬく。
「ふぅ~……。」
彼女が一つ息を吐き出すと、補給物資を積んだ車が今にも走り出そうとしていた。
「悪いが逃がさねぇよ。」
弾倉に残った弾でタイヤを撃ち抜きパンクさせると、制御を失った車は横転してしまう。その車に彼女がハンドガンのリロードを完了させ近づくと、中から運転していた兵士がハンドガンを構えて現れる。しかし引こうとした引き金がピタリと止まった。
「あ~、焦りすぎだ。セーフティー外し忘れてるぜ?」
そう兵士に語り掛けながら、彼女は容赦情けなくその兵士の頭をハンドガンで撃ちぬいた。
「任務完了っと。さぁ~、一服一服。」
そして彼女が懐から煙草を取り出し火をつけたところで耳掛け式の小型の無線機に無線が入った。
『あ~、あ~。こちらメイ。エリー聞こえる?』
「聞こえてるぜ。」
『ならオッケー、例の補給部隊はもうやっちゃった?』
「あぁ、今頃は閻魔様に天国か地獄か決められてるころだと思うぜ。」
敵国の補給部隊を一人で壊滅させた彼女の名前はエリー。無線の先で彼女に語り掛けているのはオペレーターのメイ。二人はタッグで傭兵稼業を営んでいるのだ。
『流石エリーね仕事が速い。でもね、残念なお知らせが一個あるわ。』
「残念な知らせ?」
『うん、今回のクライアントがバックレたのよ。』
「はぁ!?それじゃあアタシが今までここで待ってた時間は!?」
感情を露にしながらエリーは無線の先にいるメイに問いかける。
『無線越しに怒鳴らないでよ!!こっちだって困ってるんだから!!』
しかし無線から返ってきたのはエリーをも黙らせるメイの怒鳴り声だ。それに耳をキーンとさせながらエリーはメイに再び問いかけた。
「あ~はいはい悪かった、それでどうすんだ?」
『ひとまずそこから離れたほうがいいわ。もうすぐその物資を狙ってクライアント側の兵士が来るはずよ。』
「了解、ほんじゃただ黙って渡すのも癪だし。」
エリーは再びハンドガンに手をかけると輸送車のガソリンタンクを撃ち抜いた。するとちょろちょろとガソリンがあふれ出てくる。
「煙草の火を消すにはちょうどいいぜ。」
そして彼女はそのあふれ出たガソリンへと向かって未だ火種の残る煙草をポイと投げ捨てた。するとそれに引火して物資の積んであった輸送車はあっという間に火に包まれた。
「ほんじゃおさらば!!」
その場から彼女が離脱を開始した直後、ドーン!!と一際大きな爆発音が密林の中に鳴り響いたのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ヴァンパイアキス
志築いろは
恋愛
ヴァンパイアおよびグール退治を専門とする団体『クルースニク』。出自ゆえに誰よりもヴァンパイアを憎むエルザは、ある夜、任務先で立ち入り禁止区域を徘徊していた怪しい男に遭遇する。エルザは聴取のために彼を支部まで連れ帰るものの、男の突拍子もない言動に振り回されるばかり。
そんなある日、事件は起こる。不審な気配をたどって地下へ降りれば、仲間の一人が全身の血を吸われて死んでいた。地下にいるのは例の男ただひとり。男の正体はヴァンパイアだったのだ。だが気づいたときにはすでに遅く、エルザ一人ではヴァンパイア相手に手も足も出ない。
死を覚悟したのもつかの間、エルザが目覚めるとそこは、なぜか男の屋敷のベッドの上だった。
その日を境に、エルザと屋敷の住人たちとの奇妙な共同生活が始まる。
ヴァンパイア×恋愛ファンタジー。
この作品は、カクヨム様、エブリスタ様にも掲載しています。
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる