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第五章
肌寒い時期には……
しおりを挟むその日の夕方……俺は一人で厨房に立っていた。今日の夕食の当番は俺だったのだ。
「さてさて、最近少し肌寒くなってきたし……そろそろ鍋料理を多用してもいい頃合いだな。」
そういうことで、今日は体の温まる鍋料理にしよう。
「まずは出汁を引くところから始めよう。」
土鍋にたっぷりの水を張って、そこに表面を軽く拭いた昆布を入れる。そしてゆっくりと時間をかけて昆布を戻してから、火にかける。
「沸騰しないぐらいの温度でじっくりと……。」
昆布はあまり強い温度で火を入れると、雑味のあるぬめりが溢れてくる。だから、沸騰しないぐらいの火加減でじっくりと出汁を引くのだ。
「良し、そろそろ引き上げようか。」
出汁の味見をして、昆布の旨味がしっかりと溶け出ているのを確認してから、昆布を引き上げる。
「後は一回沸騰させてから、鰹節を入れる。」
昆布出汁を沸かした後に鰹節をたっぷりと入れて、火を止める。そして鰹節が全て鍋の底に沈んだのを見計らって裏漉してやれば……。
「出汁の基本中の基本。一番出汁の完成だ。」
ちなみに、さっき引き上げた昆布と裏漉した鰹節をもう一度火にかけて、再び出汁を抽出したものが二番出汁と呼ばれるものになる。
主に一番出汁はお吸い物とか、上品な味付けが要求されるものに使う。その逆に二番出汁は、しっかりと味を付けなければならない料理……主に煮物等に使うな。
「今回は二番出汁も使うから、こっちもまた出汁を引いておこう。」
二番出汁は鍋のつけダレに使う。
「出汁を引いたら、酒と味醂、醤油で味を調えて……最後に、輪切りにしたレモモとグリーンマドンナをたっぷりと入れる。」
本当は柑橘系の果物を入れてから、一ヶ月ぐらい熟成させたいけど、それはまた今度仕込んでおこう。
「よし、後はじっくり冷ましながら柑橘の香りと酸味を出汁に移そう。」
鍋のつけダレはこれで完成……あとは、鍋に入れる具材を仕込んでいこう。
「え~……っと、肉と魚はたくさん用意しないとな。それと野菜も……。」
マジックバッグを漁って、買いだめしていた肉と火を通しても美味しそうな魚と野菜を取り出していく。
「まぁ、こんなもんかな。」
全員をお腹いっぱいにする量を並べてみると、食材が山のように積み重なってしまった。
「さて、気合を入れて仕込んでいくか。」
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