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第五章
カリン、オムレツへの挑戦②
しおりを挟むカリンとマンツーマンでオムレツの練習を始めてから、約三時間後……苦戦しながらも、彼女は布をクルリと返せるようになった。
「ようやく原理がわかった……これだけで腕が痛くなりそうだったぞ。」
「それじゃあ、次はいよいよ実際にやってみましょうか。」
俺はマジックバッグから卵の入った木箱を取り出す。
「ここの中に入ってる卵なら、どれだけ使ってもいいですから。」
「ど、どれだけ使っても良いと申してもだな。失敗したらどうするのだ?」
「それはもちろん、自分のお腹に詰め込んでもらいます。食材は無駄にはできませんから。」
「ぐぬぬぬ……そうだよな、そうに決まっているよな。」
さも当然とばかりに即答されたカリンは、がっくりと肩を落とした。
「でも、今回は食べるのを手伝ってくれる助っ人を特別に用意しました。」
マジックバッグの中に手を突っ込んで、その中で休んでいたグレイスを引っ張り出した。
「ふぁぁ……ヒイラギさん、もうご飯できたっす?」
シア達と鬼ごっこをして遊んでいたグレイスは、子供たちの無尽蔵のスタミナについていけなかったらしく、さっきハウスキットからフライパンを取ってきた時にようやくここまで戻ってきていたのだ。
で、今の今までご飯ができるまでマジックバッグの中で休んでもらっていた……というわけだ。
「今からオムレツが山程食えるぞ……多分。」
「ホントっすか!?お腹ペコペコなんで、めっちゃ食べれるっすよ!!」
すっかり元気を取り戻したグレイスは、パタパタと俺の周りを飛び回る。
「ま、まさかその魔物が助っ人なのか?」
「そうですよ。本人もお腹ペコペコって言ってるので、たくさん食べさせてあげてくださいね。」
「ぬぐぐ……な、なかなか鬼畜な用意をするな社長。此方を辱めるつもりか!?」
「そんな事思ってないですよ。ただ、自分以外に誰か食べる人がいれば……余計に頑張れるかなと思っただけです。」
自分がもし失敗したら、それを自分以外の人が食べることになる……そう緊張感を持って取り組むと、意外と早く作れるようになったりするものだ。
まぁ、逆効果になることもたま~にあるんだが、こればっかりはやってみないことにはわからないからな。
「さ、それじゃあ作り方は……。」
「しっかりと記録に残してある!!材料の用意は自分でできるぞ。」
「わかりました。じゃあ急いで用意しましょう。」
一応俺も隣でお手本を見せながらやるため、カリンの分の卵液の他に、俺が作る分の卵液も用意するのだった。
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