転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
931 / 1,052
第五章

お客さんがいない理由

しおりを挟む

 レイと話をしながら、俺は厨房の中で調理をする虎の獣人を横目で眺めていた。

(手際はかなり良いな。それに、肉に火を通す作業にも慣れている。この国だと肉に火を通すって文化が、あんまりメジャーではなかったみたいだから、ちょっと珍しいな。)

 考察している間にも、テンポよく調理は進み、ものの数分で俺たちの元へケーブという料理が運ばれてきた。

「お待たせしました、当店看板料理のケーブになります。」

「おおぉぉ!!美味そうじゃ!!」

「なるほどこういう事か。」

 ケーブの正体は、数種類の調合されたスパイスと一緒に肉と野菜を炒めて、ケバブに使われるピタパンのような生地で包んだものだった。

「お口に合うかは分かりませんが、どうぞ召し上がってください。」

「あぁ、それじゃあ早速……いただきます。」

「いただきますなのじゃ~!!」

 早速一口かぶりついてみると、芋で作られたという生地のモチッとした食感と共に、スパイシーで甘辛い黒乱牛のバラ肉の奥深い味わいが、口いっぱいに広がった。
 そして、じっくりと噛んで味わってみると、時折感じる野菜のシャキシャキとした食感が良いアクセントになって、野菜が肉のしつこさをさっぱりとさせてくれる。

「うん!!これは美味いな!!」

「無限に食べられそうなのじゃ!!」

「そ、そう言って頂けると……とてもありがたいです。」

 こんなに美味しい料理を出しているのに、なんでお客さんは来ないんだろうな。もっと有名になってもいいと思うんだが……。

「ちなみに一つ聞いておきたいんだが、今日は何人お客さんがここに?」

「今日は勇者様方だけです。普段も一日に一人か二人来てくれれば多い方でして、一人も来ない時なんかもあります。」

「なんでじゃ?こんなに美味いものを作っているではないか。」

「恥ずかしながら、実は私の顔が怖いという声を何度か頂いたことがありまして……。」

「……なるほど。」

 確かに、この店主の顔は……ハッキリ言って怖いな。こうして実際に話してみると、めちゃくちゃ良い人ということが分かるんだが、初見だと普通の人が怖がるのは無理はないな。
 でもそれを帳消しにできるほど、美味しい料理を作ることができるのも、また事実だ。

 どうにか手を貸してやれないかと頭を悩ませていると、店主があることを伝えてきた。

「実は、今日で本当にお店を閉めようかと思っていたんです。」

「なんじゃと!?」

「稼ぎがないので、このお店の家賃を払うのも難しくて……。」

「そうか、そうだよな。」

 お客さんが来なければお金も稼げない。材料を準備して待つだけで赤字になっていくのは自明の理。

「ん~、わかった。じゃあケーブを……そうだなもう十個ぐらい追加で頼んでおこうかな。レイもまだ足りないんだろ?」

「さ、悟られてしまったのじゃ。」

 ついさっき自分の分をあっという間に食べ終わって、俺の手にしていたケーブを物欲しそうに見つめていたもんな。

「じゃ、お願いできるか?」

「あ、ありがとうございます!!すぐにご用意します。」

 そして彼が厨房へと戻ったのを見計らって、レイの耳元で囁いた。

「レイ、ちょっと席を外す。すぐに戻って来るから。」

「承知したのじゃ。」

 音もなくお店を出ると、俺は急いで王宮へと向かって走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...