転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
916 / 1,052
第五章

カリンとマドゥの約束

しおりを挟む

 カリンが用意したのは、とある証明書だった。

「マドゥよ、これが何かわかるか?」

「……わかんない。」

「これは、誰と誰が家族関係にある……ということを証明するものだ。まずはここに此方が名を書く。」

 躊躇いなくカリンはその証明書に自分の名前を書いた。そしてペンをマドゥへと手渡した。

「マドゥよ、ここにそなたが名前を書けば……此方とマドゥはその時より新たな家族となる。」

「新しい家族……。」

 ペンを握るマドゥは悩んでいるのか、なかなか名前を書こうとはしない。

「で、でも僕がいて邪魔じゃないの?僕はいつ変な魔物になるかわかんないし……。あ、危ないよ?」

「それならば心配する必要はない。マドゥが万が一魔物化してしまった場合、此方の魔法で一時的に元に戻すことが可能だ。」

「そ、それなら僕を家族にしてどうするの?迷惑にしかならないよ。」

「その答えはさっき言ったぞ?マドゥがこの世にいる理由を作るためだ。」

 不安そうなマドゥの問いかけにカリンは即答していく。

「そ、その理由って?」

「決まっているだろう。マドゥと此方が家族である……それこそが理由になる。」

「…………。」

 迷うマドゥにカリンは、優しく頭を撫でながら語りかける。

「最初は戸惑うやも知れん。赤の他人と家族になるのだからな。……だが、家族になった暁には此方がこれだけは約束しよう。そなたを産んだ母親よりも、他の誰よりも此方がマドゥに愛情を注ぎ、生きる幸せというものを必ず教えること。そして、マドゥをその魔物化という厄介なものから解放することもな。この二つ約束は此方の命に変えても、必ず守る。」

 そう真剣な眼差しでカリンはマドゥに約束すると、その熱意が伝わったのか、マドゥはゆっくりと紙に自分の名前を書き始めた。

「こ、これでいいかな。」

「うむ、問題なしだ。これで正式に此方とマドゥは家族になった。これからよろしくな、マドゥ。」

「あ、う、うん……えっと、そのカリンのこと何て呼べばいい?」

「それは無論だな。むしろそれ以外許すつもりはないぞ?あぁ例外的にカリンママならば許そう。」

「えぇ~!?」

 果たしてこれはジョークなのだろうか……カリンの目は冗談を言っている人のそれではない、真剣な目をしている。

「よ~し、新しい家族が増えたのだ。今日の食事は豪勢にしなければな。」

 そう言ってカリンは俺の方をチラリと見てきた。

「お祝いの料理を作れば良いですか?」

「うむ、頼もう!!料理ができるまで、マドゥは此方と甘える練習だ。さぁ寝室へ行くぞ!!あぁ、安心しろ。もちろん今日からは此方と一緒の部屋だからな。」

「その心配はしてないよぉ……。」

 すっかり母性に目覚めてしまったカリンにお姫様抱っこされて、マドゥは寝室へと連れて行かれてしまったのだった。

 前の環境よりも、少しでも彼が幸せになることを願うばかりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

処理中です...