上 下
911 / 1,052
第五章

マドゥの母親

しおりを挟む

 ヴラドウルフを片付け終えて、俺とカリンはヴラドウルフ達の集落の中へと足を踏み入れる。そしてマドゥの母親を探して木と土でできた家の中に足を踏み入れると……。

「うっ、この臭い……。」

「酷いな。」

 家の中には、無残に内臓を貪り食われてすでに原形をとどめていない男の死体が一つと、ヴラドウルフに形容しがたい凌辱をされたらしい女性が無残に横たわっていた。
 まだ息があるその女性も体のいたるところに噛み傷や爪で引っかかれたような痕があり、今にも息を引き取ってしまいそうなほど衰弱していた。

「おい、お前にはまだ死なれては困る。」

 カリンはそう言って女性の近くに歩み寄ると、治癒魔法のようなものをかけて彼女の体を治療していく。するとその女性はカリンに視線を向け、かすれた声で問いかけた。

「だ…れ?」

「此方の名など今はどうでもよいことだ。」

 そしてカリンは彼女へと質問を始めた。

「そこで臓腑を食われて死んでいるのはお前の伴侶か?」

「ただの…彼氏。」

「では質問を変える。お前にはという子供がいるな?」

 その質問をされると、彼女はびくっと反応して答えに詰まる。その反応を見てカリンはすべてを察したようだ。

「し、知らない。」

「白を切っても無駄だ。」

「っ、マドゥは私が望んで産んだわけじゃない!!」

「ほぅ?望んだわけではないのに、わざわざ腹を痛めて産んだのか?」

「それは……あの人に産めって言われたから。」

「あの人、とはマドゥの実の父親のことだな。そいつはマドゥが幼いころに死んだのだろう?」

「私が殺したのよ。もうあの人と一緒の生活なんて耐えられなかったから。」

「ではなぜマドゥは自らの手で殺さなかった?望んだ子ではなかったのだろう?」

「ご飯を作らなかったら勝手に死ぬと思ってたわ。でもしぶとかった……だからあの時捨てて帰ったのよ。」

 悪びれもせずにつらつらと語るマドゥの母親に、カリンは怒りをにじませながらも、最後の質問を始めた。

「すでに答えは眼に見えているようなものだが、最後に聞いておこう。お前はマドゥを愛していないのか?」

 その問いかけに対して、マドゥの母親は即答する。

「愛してるわけないでしょ!!アイツのせいで貧乏になって、こんな冒険者稼業をやらなきゃいけなくなったんだから!!」

「……もういい。しゃべるな。」

 そしてカリンは喋れなくなる魔法をかけて、治癒魔法をかけるのをやめた。すると、彼女の体に変化が現れる。

「~~~っ!?~~~っ!!」

 さっきまで完全に回復しつつあった体がどんどんボロボロになっていくのだ。

「お前にかけていたのは治癒魔法ではない。体の時間を巻き戻す魔法だ。此方が魔法をかけている間は体の時は戻る。だが、今その魔法を解いた……故にお前の体は急速に元の状態に戻っていくのだ。」

 ボロボロになっていく彼女を冷徹に見下ろしながらカリンは言った。

「行くぞ社長、今度はエートリヒ殿のところに行くのだ。」

 声が出せないようにする魔法はそのままに、俺はカリンに連れ出され今度は王都へと向かうことになったのだった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

処理中です...