906 / 1,052
第五章
料理の匂いに誘われて、目覚める少年
しおりを挟む出来上がったリゾットを持って少年が寝ているという部屋に入ると、彼はまだ眠りについているようだった。
「カリンはもう少しで目覚めるって言ってたよな。」
それなら、この子が起きるまでここで待ってみるか。起きた時に周りに誰もいなかったら不安だろうし、何よりここはこの子にとっては知らない場所だ。それでパニックになって、魔物化されたら大変だからな。
「一先ず料理はここに置いてっと。」
ベッド脇の机の上に料理を置いて、椅子に座りながら少年の寝顔を眺めていると……。
「ん?」
料理のある方に寝返りをうったと思ったら、ヒクヒクと鼻を動かして、必死に匂いを嗅いでいるような仕草を見せる。
「いい匂い……って、こっ……ここはどこ!?」
料理の匂いに誘われて、ゆっくりと目を開けた少年は、ここが知らない場所だと気づいて飛び上がる。
「まぁまぁ、落ち着いて。」
「あっ、お前はっ!!僕をどこに連れてきたんだ!!」
「それは、ご飯を食べながらゆっくり話そう。」
俺を威嚇する少年を宥めながら、今しがた作ったリゾットを彼に差し出した。すると、ヨダレを垂らしそうにしながらも、キッとこちらを睨みつけてきた。
「へ、変なもの入ってないか?」
「もちろんだ。俺は君に酷い事をしたアイツとは違うから、安心して食べていい。」
優しくそう言うと、少年はスプーンでリゾットをすくい上げて一口食べた。すると、パチッと大きく目を見開く。
「んむっ!?お、美味しい……。」
「だろ?料理の腕には自信があるんだ。」
お腹が空いていたのだろう、少年はあっという間にリゾットを完食すると、少し物足りなさそうな表情を浮かべていた。
「もっと食べたいか?」
「な、なんでわかったの?」
「そう顔に書いてあるからな。」
すると、彼はペタペタと自分の顔の感触を触って確かめ始める。
「それじゃ、おかわり持ってくるから。ちょっと待っててな。」
そして部屋を出ようとすると……。
「あ……ま、待って!!」
「ん?」
急に少年に呼び止められる。
「なんで僕にこんなに優しくしてくれるの?僕に何をしてほしいの?ねぇ、教えてよ!!」
そう問いかけてきた少年の瞳には、涙が溜まっている。
「すごく酷い騙され方をしたから、そう簡単には信じてもらえないかもしれないけど……。」
俺は少年に近づくと、ポンと頭に手を置いてワシャワシャと撫でた。
「俺たちは君を助けたいんだ。それに対する見返りなんて、何もいらない。だから、今はまず美味しいご飯を食べて、元気になってくれ。」
こんな事を言われても、急に受け入れられるわけない。少し一人で考える時間も必要だろう。一度改めておかわりを取りに行くか。
2
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる