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第五章

カリンと少年の様子は…

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 フィースタの屋敷で一日を過ごした翌日……明朝に俺はカリンの屋敷を訪ねていた。

「さて、どうなってることやら……。」

 コンコンと玄関の扉をノックすると、まるで二日酔いをしてしまった時のように、明らかに気分が悪そうなカリンが顔を出した。

「あ、おはようございます。顔色悪いみたいですけど、大丈夫ですか?」

「しゃ、社長か……。体調に関しては問題ない、魔力切れの症状が続いているだけだ。」

 何とか元気そうに取り繕っているものの、演技が下手すぎて無理をしているのがバレバレだ。

「その様子だと、昨日から何も食べれてないんじゃないですか?」

「そう……だな。」

「何か軽い朝食でも作りますよ。上がってもいいですか?」

「うむ。許可しよう。」

 そして彼女の屋敷にお邪魔して、早速キッチンへと向かった。

「保管庫の食材は何を使っても構わん。好きなように使うといい。」

「ありがとうございます。じゃあ、少し待っててください。」

 保管庫の中にあった野菜と卵、それとマジックバッグの中に入れていたお米と牛乳とチーズを使って、簡単なリゾットを作ることにした。

 野菜を切ったりお米を煮たりしている間に、カリンに昨日の少年のことについて問いかけてみることにした。

「あの子の様子はどうですか?」

「変わらずまだ眠っている。だが、もうそろそろ起きてくる時間だと思うぞ。僅かだが魔力に波が出てきた。」

「なら多めに用意しておいたほうがいいですね。きっとあの子もお腹が空いてるでしょうから。」

「そうだな。」

 調理を進めていると、二階から眠そうに欠伸をしながらユリが起きてきた。

「母上、おはよう……って、なな、なんで社長がここにいる!?」

「おはようユリ、ちょっとお邪魔してるぞ。ユリも朝ごはん食べるか?」

「じょ、状況が理解できないが……せっかく作ってくれるなら、食べる。」

「ん、それじゃちょっと待っててくれ。」

 手早く野菜入りのリゾットを仕上げて盛り付け、二人のもとへ運んだ。

「お待たせしました。」

「ほおぉ、今の状態でも食欲を唆る香りが……。」

 昨日食べていなかったからだろう、いざ料理を前にするとカリンのお腹から、くぅぅ……と空腹を知らせる音がなった。

「お、珍しく此方の腹が悲鳴を上げている。」

「おかわりもありますから、食べれるだけ食べてください。俺は、あの子の所に料理を運んできます。」

「あの少年の部屋は、二階に上がって右の一番奥の部屋だ。」

「わかりました。」

 お盆にリゾットとスプーンを乗せて、俺は二階の少年がいるという部屋へと向かう。その道中、一階からカリンとユリの『美味しい』という声が聞こえてきて、思わず笑みが溢れてしまった。
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