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第五章
魔力を回復するお香
しおりを挟むフィースタの屋敷の中へと連れこまれると、彼女の屋敷で過ごした一室へと運び入れられた。
「一先ず横になってください。今、魔力の回復を助けてくれる物を持ってきますから。」
「う、ありがとう。」
彼女は軽々と俺のことを抱き上げて、ベッドの上に寝かせてくれた。そしてパタパタと駆け足で部屋を出ていく。
「この感じ……懐かしいな。この世界に来たばっかりで、サンダーブレスを魔力消費を考えずに撃ったあの時と同じだ。」
あの時はドーナに膝枕をしてもらったんだよな。お互いに顔を赤くしていたのをよく覚えている。今ではもう懐かしい思い出だ。
あの時のことを思い返していると、何か色々と持ってフィースタが戻ってきた。
「おまたせしました。お体は大丈夫ですか?」
「あぁ、少しずつ魔力が回復してきたみたいで、少し良くなったよ。」
「それは何よりです。」
彼女は俺のベッドの横にある椅子に座ると、カチャカチャと何かを準備し始めた。
「それは?」
「魔力の回復を助けるお香です。」
「お香か、そんなものもあるんだな。」
「他の種族よりも魔力の多いエルフは、魔力を最大まで回復するために、よく使うんですよ。」
「ってことは、今頃カリンも使ってるのかな。」
「カリン様も?お二人で何かしたんですか?」
「あぁ、実はさっきまで違う大陸に行ってて……そこの黒い霧に魔力をずっと吸われてたんだ。」
さっきまでカリンとともにあの大陸にいたことをフィースタに伝えると、彼女は納得したように頷いた。
「そういうことでしたか。あの大陸は、私でさえあっという間に魔力がなくなってしまいますから……。」
納得しながら、彼女はお香を焚くと部屋の中に甘い香りが漂い始めた。
「甘い香りだな……。すごくリラックスできる。」
「いい香りですよね。私、子供の時からこの香りが大好きなんです。」
俺の横で彼女はそう語りながら微笑む。
「鼻から大きく息を吸って……肺の中をこの香りでいっぱいに満たしてください。」
彼女の言う通りに呼吸をしていると、どんどん眠くなってくる。
「ん、なんか眠くなってきた。」
「そのまま……どうぞ。体を委ねてください。」
甘い香りに体の外も中も満たされ、俺の意識は心地よい眠りに落ちていった。
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