転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
893 / 1,052
第五章

不毛の地

しおりを挟む

 次に目を開けると、俺は草木一つ無い枯れた大地の上に立っていた。隣にはカリンがいる。

「無事に転移できたようだな。」

「ここが、未開の大陸……。」

 朝だというのに周りは薄暗く、黒い霧のようなものが漂っている。

「では此方はナルダの魔力を探すことに集中する。社長、護衛は頼んだぞ。」

「わかりました。」

 するとカリンは目を閉じて、何かを探るようにしながら、前に進んでいく。そんな彼女の後ろにピッタリとくっついて、辺りを警戒しながら俺も進んだ。

(にしても、この空気……何か体の力が抜けるような、変な感じがする。)

 黒い霧を吸い込むと、体の力が抜けるような変な感覚に襲われる。その感覚に顔をしかめていると、カリンがそれを察したようにポツリと呟いた。

「この黒い霧は、魔力を奪う霧だ。見ての通り、生命の欠片もないようなこの大地は、魔力の源である魔素を生み出すことができない。だから、命あるものから魔力を奪うようになった。」

「それがこの黒い霧ってわけですね。」

「そういうことだ。この霧があるせいで、なかなか調査が進まんのだ。いつもいいところで魔力切れになる。」

 歯がゆそうにカリンは言った。

「だが、今回は社長がいる。無駄にこの大地の原生生物に魔力を割く事なく、ナルダの捜索に集中できるだろう。」

 そうカリンが言った次の瞬間……ものすごい勢いでこちらへ向かってくる気配を感じ取った。

「何か……来る。」

「一つ警告しておくぞ社長。この大地の原生生物は、魔力が無い。故に素の身体能力がとてつもなく高い。気をつけろよ?」

「警告、ありがたく受け取っておきますよ。」

 気配の近づいてくる方向へ、警戒心を高めていると……こちらへ向かってきていたものが何なのか、やっと視界に映った。

「なんだあの化け物は……。」

 こちらへものすごい勢いで近づいてきていたのは、ライオンの頭をした二足歩行の巨人だった。

「バフォメットのライオンバージョンか?」

 そのライオンの巨人は、足元にあった巨岩を手で鷲掴みにすると、こちらへ向かって投げてきた。

「っ!!めちゃくちゃやってくれるな。」

 咄嗟に龍桜を使って、その岩の前に立った。

「フンッ!!」

 迫ってきたその岩を下から蹴り上げ、無理矢理方向を変えて直撃を回避した。それとほぼ同時……岩の陰からライオンの巨人が姿を現し、鋭い爪のついた剛腕を振り上げていた。

「ガァッ!!」

「視界を潰して、距離を潰すなんて知能もあるのか。」

 その腕を躱しながら懐に潜り込み、鳩尾みぞおちへ拳を叩き込んだ。

「ん?」

 ヒットした感触が軽く、違和感を覚えていると、ライオンの巨人は派手に後ろに吹き飛びながらも、軽やかな着地をしてみせた。

「なるほど、直撃寸前で後ろに跳んだか。」

 カリンの警告の意味がよくわかった。魔力を使わなくても、身体能力だけで戦えるように、ここの原生生物は適応してるんだ。

「でも、そっちの方が俺は得意だぞ。」

 魔法という搦め手がない純粋な実力勝負……それは俺の専売特許だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...