848 / 1,052
第五章
仲間のアジトへ
しおりを挟む男が吐いた仲間のアジトへとすぐに足を運ぶと、そこでは一人の男がせっせと荷物をまとめている所だった。
「動くな。」
背後から男へそう声をかけると、ビクッと体を震わせながら、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「な、なんでここがわかった?」
「お仲間が洗い浚い吐いてくれたよ。」
ドーナがそう言うと、男は表情に怒りを宿しながらギリギリと歯軋りする。
「あんの野郎……仲間を売りやがったな。」
怒りを露わにしていた男だったが、突然ニヤリと笑い、テーブルの上にあった何かの結晶を手に取った。
「だが残念だったな!!オレはコイツで逃げられ……。」
恐らくは脱出するための何かだったのだろう、男が勝ちを確信してそれに魔力を込めた刹那、レイがボソリと呟く。
「結界魔法……封魔。」
俺達には聞こえていたその声は、男には聞こえていなかったようで、結晶を高々と掲げながら今か今かと転移するのを待ちわびている。
しかし、一向にその時はやってこない。
「な、なんでだ?なんで発動しない!?て、転移しろ!!」
焦って叫ぶ男にレイが近づいていくと、彼女は男が手にしていた結晶を奪い取る。
「残念じゃがこいつはもう使い物にならん。」
そう言って、レイは手にしていた結晶を粉々に握り潰す。その瞬間、今まで勝ちを確信して薄ら笑みを浮かべていた男の表情がガラリと変わり、表情に絶望が張り付いていた。
「この空間にワシが魔力の使用を禁ずる結界を張った。ワシが許可した者以外は、今ここで魔力を使うことはできんのじゃ。」
「そ、そんな魔法聞いたこと無いッ!!」
「そうじゃろうなぁ。」
レイはうんうんと頷きながら、男へと人差し指を向ける。
「まぁ、眠れ。貴様とここで話すことはもうない。」
「う……く、くそ。」
バタンと男は倒れ込むと、寝息を立て始めた。
「一丁上がりじゃ、主~♪」
クルリとこちらを振り返ると、レイはボフッと俺の腹に頭を埋めてくる。
「褒めてたも~。」
「はいはい、頑張ったな。」
レイの頭を撫でていると、隣にいるドーナとランの二人から、妬むような視線を向けられているのを感じる。
「はい、もう満足だろ?」
「もう少し撫でて欲しかったがのぉ~。まぁ、主の愛情をたっぷりと補充できた故、良しなのじゃ。」
俺から離れると、レイはドーナとランの方をチラリと見て、ニヤリと笑う。
今このときから、ドーナとランの二人がより一層今回の依頼に対して積極的になったのは言うまでもない。
3
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる