上 下
837 / 1,052
第五章

フレイを連れてきた理由

しおりを挟む

「今回は、お菓子の材料を探しているのでしたな?」

「はい、そろそろ新作のお菓子を発売しようと思ってて。珍しい果物も悪くないんですけど、できれば供給が安定しているものが欲しいですね。」

「わかりました。ではいくつか持ってこさせましょう。」

 サラサラとミルタさんは紙に何かをメモすると、部屋の外で待っていた従業員の獣人に手渡した。

「頼みましたよ。」

「かしこまりました。」

 そして再び扉を閉めると、ミルタさんは正面のソファーに腰掛けた。

「それにしても、ヒイラギさんとエルフのお店はだいぶ繁盛しているようですな。」

「まぁほどほどには。」

「またまた御謙遜を。人間の国でも、この国でもかなり話題になっておりますぞ?エルフの売るお菓子が安くて美味しいと。」

「それは嬉しいですね。」

「私も一度購入させて頂きましたが、あれは本当に美味しいお菓子でした。あんな安さで売られているのが不思議なほどです。安さの秘密などはあったりするのですかな?」

「それは、もともとエルフの国で食べられないと言われていた食材を使ってるおかげですね。」

 今でこそ、あの小豆みたいな豆はリコが必死になって栽培してくれてるけどな。
 それでも、一般の家庭には売り物にならないからって、かなり安くこちらに売ってくれているのだ。

「なるほど、食べられない食材を食べられるようにしたのが、あのお菓子というわけですな。」

 とても興味深そうに、ミルタさんはこちらの話をメモしている。

「いやはや、勉強になりました。食べられるものに目を向けるのではなく、食べられないものに目を向けるとは。」

「ただ目の前で食材が一つ捨てられるのが、見てられなかっただけですよ。」

「いえ、それこそが商いには大事なのです。他の人にはない発想……ヒイラギさんにはそれがあったということですな。」

 ミルタさんとそんな事を話していると、部屋の扉がコンコンとノックされた。

「おっ、どうやら持ってきてくれたみたいです。入っていいですよ。」

「失礼いたします。」

 従業員の人が、大きなお皿にたくさん果物を乗せて部屋に入ってきた。どれも供給が安定している果物らしいが、見たことのないものもあるな。

「ふわぁ~、いろんな果物があるね。」

「そうだな。さ、ここからどれがどんなお菓子になるか……フレイも一緒に考えてくれ。」

「うん!!がんばるよ!!」

 フレイは俺がエルフの国へ行っている間に、随分お菓子の腕を上げた。一人で簡単にケーキも作ってしまうほどに。下手したら、今の俺よりも腕はあるかも……。
 だから、今日は彼女のお菓子の知識も借りようと思い立った訳だ。一人じゃでてこない発想も、二人だと出る可能性もあるからな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

処理中です...