転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる

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第五章

再会の時は突然に

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 シンとの会談を終えた後、俺はハウスキットを展開して一人厨房に入った。

「よっし、それじゃ始めるか。」

 今から始めるのは、明日の営業の仕込み。今日は俺のお願いで、みんなに宴会で他の種族との交流をしてもらったからな。

 その埋め合わせは俺自身がする。

 そして黙々と作業を進めていると、ハウスキットの扉が開く音がした。

「ん?誰だ?」

 仕込みに集中していたとはいえ、気配がまるで無かった。疑問に思うとほぼ同時、隣から聞き覚えのある声が聞こえた。

「んっ、やはり和菓子は美味いな。こちらの世界に来ても大福が食えるとは素晴らしいことだ。」

「っ!!お前は……。」

 気付けば、俺の隣でフードの女が出来上がったばかりのフルーツ大福を食べていたのだ。

 すぐに臨戦態勢に入るが、彼女はそんな気はないとばかりに、大福を全て口の中に放り込む。

「んむっ……今日は戦いに来たわけじゃない。ただコレの回収に来ただけだ。」

 大福を食べた手を懐に突っ込むと、彼女はエンリコの生首を取り出した。もう喋れないように、ヤツの口の中には詰め物がしてある。

「そいつを尋問してた獣人はどうした?答え次第じゃタダで帰すわけにはいかないぞ。」

「言っただろう、今日の目的は回収だと。殺しではない。」

 そう言って彼女はエンリコの生首を再び懐の中へと仕舞う。

「じゃあなんでわざわざ俺に会いに来た。回収だけならとっとと帰れば良かっただけだろう?」

「ふふ、つれないな。元気にやっているか、顔を見に来ただけだ。」

「なぜそこまで俺を気に掛ける?お前達の敵なんだろ?」

「…………そうだな。組織の忌むべき敵ではある。だが、私個人としてはそうは思っていない。」

 彼女はそう言いながら、今度は欲張りアイス大福を口にする。

「んんっ!?これは……風呂上がりによく食べたアレに似てるな。中にほろ苦いアイスが入っていて、本家よりも私はこちらのほうが好みだ。」

 味わいながら、それを食べ終えると彼女はポケットからお金を取り出した。

「えっと、今のでいくらだ?」

「……銀貨4枚。」

 彼女は全財産らしいお金を手のひらの上で数えると、カチン……と固まってしまう。

「ぎ、銀貨2枚と銅貨3枚しかない。」

「それが全財産か?」

「め、面目ない……。」

 申し訳無さそうな声色で、彼女は少し俯いた。

「どんだけ貧乏生活してるんだ。死の女神から何ももらっていないのか?」

「イースから与えられるのは命令だけだ。金なんてものはもらえない。」

「…………。」

 哀愁漂う彼女の姿は敵ながら、なかなか同情できる。そんな彼女へ俺は金貨を5枚手渡した。

「今日のは一つ貸しだ。返すつもりがあるなら、今度はちゃんと買いに来い。」

「おぉ!!た、助かる。……ちなみにこの金色の硬貨は日本円でいくらぐらいの価値がある?」

「大体一万円ってところだ。」

「ってことは……五万円も!?こんなにもらっていいのか?」

「それで少し美味しいものでも食べると良い。そうすれば死の女神に従ってるのが馬鹿らしくなるかもな。」

 そう言うと、彼女はフードから唯一見える口で笑った。

「ふふふ、私自身は死の女神に仕えるつもりなんて微塵もないんだがな。この体が……この魂が奴に縛られているんだよ。」

 彼女がそう言った直後、無数の鎖がまるでマリオネットのように彼女の体の至る所へと繋がっているのが見えた。

「見えただろ?」

「……あぁ。」

「ま、何もかも死の女神なんかの思い通りになるつもりはない。命令に無理矢理逆らって、ここに来れているのが何よりの証拠だ。」

 彼女はそう言うと、くるりとこちらに背を向けた。

「じゃ、そろそろ行く。遅くなると怒られるからな。」

「……お菓子を買いたかったらいつでも来い。」

「あぁ、そうするよ。」

 背中を向けながらヒラヒラと手を振り、去ろうとする彼女の前にイリスが立ち塞がる。

「あ、あなたは何者なんですか?」

「転生の女神イリスだな。」

 イリスを前にした彼女は、何を思ったのか深く頭を下げた。

「感謝する。」

「え?」

 そしてイリスがポカン……となった一瞬の隙を掻い潜り、彼女は去ってしまった。
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