794 / 1,052
第五章
エルフとの外交へ向けて①
しおりを挟む母さんは俺を気遣い、夕飯の際、兄弟とは別々にしてくれた。
兄も弟もあの事件以来、俺と会話がないから。
「リクエスト、俺、よくわかんないし...母さんの得意料理とかなんでもいいよ、俺」
微笑んで俺はそう言ったら母さんはきょとん、として微笑んで....。
「和食?洋食?悩むわね...俊也はなにを作っても喜んで食べてくれるもの」
母さんもそう微笑んで、
「オムライスなんかどう?あと何かスープとサラダ...とか?」
うん、と頷いて、とても美味しかった。
明日は久しぶりに樹と会えるし、楽しみだ。
不意にスマホが音を立てた。
「樹かな」
そうして画面見たら、豊だ。
「もしもし?久しぶり」
涼太となにかあったのかな、そう感じた。
「明日、樹と映画だって?樹が嬉しそうに電話して来て。あいつ、昔からそんな感じだけど、俺たちも誘おうとして。二人きりで行きたいと思うよ、て促しといたから」
思わず微かに笑った。
「そっか、ありがとう。てか、なんかあった?涼太と」
「....鋭いな、俊也」
豊はびっくりして、その後、詳しい事情を話してくれた。
樹には良かったら伏せて欲しい、てそう言って。
「ああ、だからか。なんか前にさ、涼太、てどんな奴か、て知りたくて。樹のために。
空っぽな感じしたんだよな。涼太の部屋、何もないから」
「....空っぽな感じした...。そういえば、満たしてやれ、て確か俊也、そう言ったな、確か...俺に、そう明るく、余裕がある感じでさ。
なんか...なんだろ、お前と話すと自信持てるというか、なんていうか、さ...」
しばらく豊の話しに耳を傾けた。
「俊也、てさ、自分に余裕なくてもお前は常に他人のこと考えて、観察して、的確なアドバイスが出来る....なんだろ、凄いな、お前って...樹、お前と付き合えて良かった、て思う。いや、違う、俺も涼太も、さ、お前と知り合えて良かった...」
少し首を傾け、笑った。
「....買い被りすぎじゃない?」
「いや、お前、凄いよ...なんだろ、同じアルファだけど、俺もお前も。なんか、頭がいいんだな、天才肌で、でも思いやりもあって...人を気遣える。樹が映画が好きだから、俊也、さりげなく映画に誘ったり....自分の行きたいところじゃなく、樹の行きたいだろうな、てことを...わかってて連れていく、さりげなく....まだまだあるけど...だから、かな」
一瞬、豊が言葉を見失った感じがした。
戸惑ってるけど、なんだか。
「なに?」
「....だから、お前はいじめられてたんだろうな、多分...お前に嫉妬して。お前には敵わない感じで...
お前が凄く才能もあって、環境も恵まれてる、そう思われて....性格までいい、優しいから...なんかお前、てキラキラしてるから、羨ましくて」
「....俺がキラキラ?よくわかんないけどさ。自分のことはさ、俺は別にどうでもいいんだ、だから、あんまよくわからないけど。とりあえず、さ。
涼太はお前が、豊次第で変われると思う。きっと。
一緒に色んなことをして、探せばいい。
涼太を楽しませること、喜ぶこと、笑顔にさせること。涼太と一緒に探してさ、そしたら涼太は大丈夫。父親の話しは別だけど。
裁判沙汰にしたら証言やら記事にでもされたら涼太、また苦しむから、考えなきゃだけどさ」
豊が黙り込んだ。
「どうした?」
「....いや、お前、本当に凄いな、て思って...
即答で的確にアドバイスできて...凄いな、お前。確かにそうだ...。
樹、お前に出会えて良かった。俺や涼太で、さ、樹を以前、傷つけてしまった。お前がいたから、樹も涼太も俺も...変われたし救われて今がある...」
豊の呆然とした声にまた少し首を傾げそうになりながら微笑んだ。
「多分、もしかしたらだけど、涼太は自暴自棄になってたのかもな。樹も豊のことも本当は好きだけど嫌われたい、みたいなさ。
あと父親、アルファなんじゃない?案外。だからアルファが憎い、みたいな。
あと自分がアルファじゃなくて、コンプレックスとかジレンマ、て言うのかな。
俺も良かったよ。お前と、豊とも出会えて。ようやく、俺、友達ができた、て感じして嬉しいからさ」
俺が笑ったら、豊はまた少し黙って、
「....そうか...なるほどな...。ありがとう、俊也。本当にありがとう」
そう言って微笑んでる感じがして、嬉しかった。
「上手くアドバイス出来てるかわからないけどさ、頑張りなよ、涼太が好きならさ。涼太が笑っていて欲しいなら、一緒にいたいなら。応援してる。俺も樹も」
「祭りとか、海やプールは多分、無理かもだけど...涼太、プール無理だったし...」
「そう?泳ぎ方、教えてあげればいいだけじゃない?言えなかったんだよね?昔は」
「....やっぱ、お前、すげーわ。その通りだな、ホント」
涼太への不安が落ち着いた感じのため息を洩らす豊に安堵し、微笑んだ。
3
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる