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第五章
どら焼き
しおりを挟む翌朝……俺はフィースタの屋敷の前で早速準備を始めていた。
「あとはこの炎の魔石をここにセットすれば……完成だ。」
組み立て上がったのは、簡易的な鉄板焼きの屋台。フィースタからもう使わなくなった廃材をもらって作ったのだが、なかなか良い出来栄えだと思う。
「さて早速焼いていこうか。」
熱した鉄板に少し植物油を馴染ませて、事前に作っていた生地を焼く。すると、ほんのりと甘い香りが辺りに漂い始めた。
「あとは焼き上がった生地で粒あんを挟めば……どら焼きの完成っと。」
粒あんを使ったお菓子といえば……やはりこのどら焼きは外せない。
「この調子でどんどん焼いていこう。」
そしてどんどん、どら焼きを作っていると……ここを通るエルフが興味を持っているのが伝わってくる。誰も声こそ掛けてこないが、興味は抱いてくれているらしい。
「よし、一通り焼いたから……あの作戦に移るか。」
例の初回無料の作戦を実行するため、フィースタのことを呼びに行った。彼女についてきてもらって、ここを通るエルフに宣伝に向かう。
「新作のお菓子です、無料なのでよかったら食べませんか?」
「……毒とか入ってないでしょうね。」
「ちゃんと私が毒見済みですよ。安心してください。」
「フィースタ様がそこまで言うなら……。」
彼女は渋々どら焼きを受け取ると、その場で一口食べてみた。すると、大きく目を見開いた。
「お、美味しい……。」
「それはよかった。本日はお試しってことで無料なので、よかったら他のお友達にも宣伝してくれませんか?」
俺は彼女にたくさんどら焼きを手渡した。
「こ、こんなにもらっていいの?」
「はい、全部あげます。自分で全部食べきっても良いですし、友達に配ってもいいですよ。」
「じゃ、じゃあ遠慮なく……。」
彼女はどら焼きを受け取ると、小走りで去っていった。
「うんうん、一先ずは好印象だな。」
「い、いいんですか?あんなにたくさんあげちゃって……。」
「一向に構わない。こっちとしては宣伝してもらえるかもしれないからな。さ、次々~……って、おや?」
屋台に戻ろうとすると、めいいっぱい背伸びをしておいてあったどら焼きの匂いを嗅いでいる、エルフの女の子がいた。
「気になるかい?」
「ひゃっ!?はわわ……。」
少し驚かせてしまったらしく、少女は固まってしまった。
「はい、これあげる。」
「え……。」
俺は少女にもたくさんどら焼きを手渡した。
「よかったら友達にも分けて、みんなで食べてくれるかな?足りなかったら、明日もここで作ってるから、またおいで?」
「あ、ありがとう……。」
「どういたしまして。」
結果、今日はどら焼きを受け取ってくれたのは、この二人だけ……。初日としては悪くない。最悪誰も受け取ってくれないかと思っていたからな。
あとはまた明日の反応を楽しみにしておこう。
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