上 下
762 / 977
第五章

泥棒の正体

しおりを挟む

 気がつくと、俺の顔は何か柔らかいものに埋まっていた。

「ん?なにがどうなって……。」

「お、おぉぉぉっ!?は、離れろ人間ッ!!」

 急に突き飛ばされ、改めて周りの状況に目を配ると、目の前で尻餅をついていた泥棒の素顔が露わになっていたことに気が付く。

「ん!?そ、その耳……まさかエルフなのか!?」

 長く、鋭く尖った特徴的な耳……これは俺がイリスに見せてもらった100年前の景色にいたエルフそのものだった。

「ふ、ふん……ここまで来たら隠し立てはできないな。その通り、私は誇り高きエルフであり……世界樹の管理人だ。」

「おぉ!!」

 まさかまさか、こんな形でエルフと邂逅することができるとは……運命というのはわからないな。おっと、感傷に浸っている場合じゃないな。リリンのアレを取り戻さないと。

「それはそれとして、リリンが競り落とした世界樹の雄花を返してくれないか?」

「断る。」

 お願いしてみるが、断る……と即答されてしまった。

「じゃあ質問だ、その世界樹の雄花を何に使うつもりなんだ?」

「それも話すことはできない。」

 フローラはプイッとそっぽを向いてしまう。

「それじゃあこの質問はどうだ?脱出の結晶が発動して、俺達が転移してしまったこの場所はどこなんだ?」

 そう新たな質問を投げかけると、目に見えてフローラの表情が悪くなる。そして顔中から冷や汗をダラダラと流しながら、彼女は小声で答えた。

「……こ、ここはエルフの国だ。」

「やっぱりな。」

 なんとなくそんな気はしていた。だから特に驚きもしない。

「で、人間である俺をこのエルフの国に連れてきてしまったわけだが、これからどうするんだ?エルフのお偉いさんに俺のこと突き出すか?」

「そ、そんなことをしたら私まで罰を受けてしまう!!国長くにおさの罰は恐ろしいんだぞ!?」

 フローラは顔を青ざめさせ、体をガタガタと震わせている。よほど国長とやらが怖いらしい。

「じゃあどうするんだ?」

 更に問いかけると、フローラはどこからか忍者刀のような小ぶりな刀を取り出して構えた。

「ここでお前を……。」

「あら、フローラ……戻ったんですね?」

「ぴっ!?」

 素っ頓狂な声を上げ、フローラが後ろを振り返ると、そこには神々しさを身に纏った、優しそうな笑みを浮かべるエルフが何人かの護衛を引き連れて立っていた。

「く、国長……。」

「長年の任、ご苦労さまでした……と苦労を労ってあげたいところですが、そちらの方はどなたでしょう?」

 フローラが何かを報告している間に、俺は護衛のエルフに拘束されてしまう。このぐらいの拘束なら、無理矢理抜け出すことは可能だが……敵意は見せたくない。
 少しの間、大人しくしておこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

処理中です...