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第五章
泥棒の正体
しおりを挟む気がつくと、俺の顔は何か柔らかいものに埋まっていた。
「ん?なにがどうなって……。」
「お、おぉぉぉっ!?は、離れろ人間ッ!!」
急に突き飛ばされ、改めて周りの状況に目を配ると、目の前で尻餅をついていた泥棒の素顔が露わになっていたことに気が付く。
「ん!?そ、その耳……まさかエルフなのか!?」
長く、鋭く尖った特徴的な耳……これは俺がイリスに見せてもらった100年前の景色にいたエルフそのものだった。
「ふ、ふん……ここまで来たら隠し立てはできないな。その通り、私は誇り高きエルフであり……世界樹の管理人フローラだ。」
「おぉ!!」
まさかまさか、こんな形でエルフと邂逅することができるとは……運命というのはわからないな。おっと、感傷に浸っている場合じゃないな。リリンのアレを取り戻さないと。
「それはそれとして、リリンが競り落とした世界樹の雄花を返してくれないか?」
「断る。」
お願いしてみるが、断る……と即答されてしまった。
「じゃあ質問だ、その世界樹の雄花を何に使うつもりなんだ?」
「それも話すことはできない。」
フローラはプイッとそっぽを向いてしまう。
「それじゃあこの質問はどうだ?脱出の結晶が発動して、俺達が転移してしまったこの場所はどこなんだ?」
そう新たな質問を投げかけると、目に見えてフローラの表情が悪くなる。そして顔中から冷や汗をダラダラと流しながら、彼女は小声で答えた。
「……こ、ここはエルフの国だ。」
「やっぱりな。」
なんとなくそんな気はしていた。だから特に驚きもしない。
「で、人間である俺をこのエルフの国に連れてきてしまったわけだが、これからどうするんだ?エルフのお偉いさんに俺のこと突き出すか?」
「そ、そんなことをしたら私まで罰を受けてしまう!!国長の罰は恐ろしいんだぞ!?」
フローラは顔を青ざめさせ、体をガタガタと震わせている。よほど国長とやらが怖いらしい。
「じゃあどうするんだ?」
更に問いかけると、フローラはどこからか忍者刀のような小ぶりな刀を取り出して構えた。
「ここでお前を……。」
「あら、フローラ……戻ったんですね?」
「ぴっ!?」
素っ頓狂な声を上げ、フローラが後ろを振り返ると、そこには神々しさを身に纏った、優しそうな笑みを浮かべるエルフが何人かの護衛を引き連れて立っていた。
「く、国長……。」
「長年の任、ご苦労さまでした……と苦労を労ってあげたいところですが、そちらの方はどなたでしょう?」
フローラが何かを報告している間に、俺は護衛のエルフに拘束されてしまう。このぐらいの拘束なら、無理矢理抜け出すことは可能だが……敵意は見せたくない。
少しの間、大人しくしておこう。
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