上 下
761 / 1,052
第五章

泥棒

しおりを挟む

 会場の明かりが一斉に落ちる。周りの人々がパニックになる最中、一人動き出した者がいた。闇に紛れて行動を謀るつもりだったのだろうが……俺のスキル夜目のお陰でそれはハッキリと見えていた。

「おい、お前……何をしてるんだ?」

「っ!!見えて……。」

 そいつはあろうことか、リリンが競り落とした世界樹の雄花を持ち去ろうとしていたのだ。

「そいつはリリンが競り落とした物だ。盗むなんてことは許さないぞ。」

「ふっ……止められるものなら止めてみろ。夜目でこの闇が見えるなら、これはどうだ。」

 するとそいつは、足元に何かを叩きつける。直後、この会場の中に濃い白煙が充満していく。

「煙玉!?」

「ではさらばだ。」

 視界が完全に奪われたと同時に、猛スピードで何かが俺の横を駆け抜けていく。

「くっ、逃がすかっ!!」

 競売場から出ると、賭場の方でも明かりが全て消えてしまっていて、こちらもパニック状態だった。

「ここの出口は1つ……あそこから出るはずだ。」

 出口へと向かって走ると、数メートル先で何者かが階段を登ったのが見えた。

「見つけたっ!!」

 その後を追い、急いで階段を登ると建物の屋根の上をアイツが駆けているのを発見した。

「煙玉といい……忍者みたいだな。」

 見失わないようにそいつを追いかけていると、後ろからライラが猛スピードで迫ってきていた。

「お嬢様の物を奪ったのはアイツだな?」

「あぁ、間違いない。」

「……欲に目が眩んだ愚か者め。」

 ライラも建物の上に飛び乗って、最短距離で追いかける。身体能力的には全力を出したライラの方に分があるようで、あっという間に距離を縮めていく。

「追いついたぞ。」

「流石は獣人族……速いな。ではその足を奪わせてもらおう。」

 そしてヤツは追いつかれる直前で、何かを足元にばら撒いた。直後、追いつきそうだったライラの足が止まる。

「無駄な小細工を……。」

「ライラ、大丈夫か?」

 俺も屋根の上に登って、ライラの隣に立つと、そこには大量の撒菱がばら撒かれていたのだ。

「おいおいマジで忍者かよ。」

「この先の屋根にはすべてこいつが撒いてあるぞ。」

 これでは普通に追いかけるのは困難だな。

「よし、後は俺が行く。ライラは下から追いかけてきてくれ。」

 俺は体を龍化させて、一気に空に羽ばたいた。

「いた……あそこだっ!!」

 そして目先に見えるアイツへと一直線に迫っていく。すると、あと少しで手が届くというところで、突然ヤツはくるりとこちらを向いた。

「悪いな、私の勝ちだ。」

 ヤツの手に握られていたのは、ドーナが競り落とした脱出の結晶。直後、その結晶が光り輝く。
 
「さらばだ人間。」

「クソッ、届けーーーっ!!」

 最後、ヤツにぶつかる勢いで翼を今一度羽ばたかせると、ヤツが羽織っていたローブに手が触れた。

 その次の瞬間、脱出の結晶の放つ光が強くなり、視界が白一色で覆われていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します

burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。 ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。 モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。 この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。

処理中です...