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第五章
泥棒
しおりを挟む会場の明かりが一斉に落ちる。周りの人々がパニックになる最中、一人動き出した者がいた。闇に紛れて行動を謀るつもりだったのだろうが……俺のスキル夜目のお陰でそれはハッキリと見えていた。
「おい、お前……何をしてるんだ?」
「っ!!見えて……。」
そいつはあろうことか、リリンが競り落とした世界樹の雄花を持ち去ろうとしていたのだ。
「そいつはリリンが競り落とした物だ。盗むなんてことは許さないぞ。」
「ふっ……止められるものなら止めてみろ。夜目でこの闇が見えるなら、これはどうだ。」
するとそいつは、足元に何かを叩きつける。直後、この会場の中に濃い白煙が充満していく。
「煙玉!?」
「ではさらばだ。」
視界が完全に奪われたと同時に、猛スピードで何かが俺の横を駆け抜けていく。
「くっ、逃がすかっ!!」
競売場から出ると、賭場の方でも明かりが全て消えてしまっていて、こちらもパニック状態だった。
「ここの出口は1つ……あそこから出るはずだ。」
出口へと向かって走ると、数メートル先で何者かが階段を登ったのが見えた。
「見つけたっ!!」
その後を追い、急いで階段を登ると建物の屋根の上をアイツが駆けているのを発見した。
「煙玉といい……忍者みたいだな。」
見失わないようにそいつを追いかけていると、後ろからライラが猛スピードで迫ってきていた。
「お嬢様の物を奪ったのはアイツだな?」
「あぁ、間違いない。」
「……欲に目が眩んだ愚か者め。」
ライラも建物の上に飛び乗って、最短距離で追いかける。身体能力的には全力を出したライラの方に分があるようで、あっという間に距離を縮めていく。
「追いついたぞ。」
「流石は獣人族……速いな。ではその足を奪わせてもらおう。」
そしてヤツは追いつかれる直前で、何かを足元にばら撒いた。直後、追いつきそうだったライラの足が止まる。
「無駄な小細工を……。」
「ライラ、大丈夫か?」
俺も屋根の上に登って、ライラの隣に立つと、そこには大量の撒菱がばら撒かれていたのだ。
「おいおいマジで忍者かよ。」
「この先の屋根にはすべてこいつが撒いてあるぞ。」
これでは普通に追いかけるのは困難だな。
「よし、後は俺が行く。ライラは下から追いかけてきてくれ。」
俺は体を龍化させて、一気に空に羽ばたいた。
「いた……あそこだっ!!」
そして目先に見えるアイツへと一直線に迫っていく。すると、あと少しで手が届くというところで、突然ヤツはくるりとこちらを向いた。
「悪いな、私の勝ちだ。」
ヤツの手に握られていたのは、ドーナが競り落とした脱出の結晶。直後、その結晶が光り輝く。
「さらばだ人間。」
「クソッ、届けーーーっ!!」
最後、ヤツにぶつかる勢いで翼を今一度羽ばたかせると、ヤツが羽織っていたローブに手が触れた。
その次の瞬間、脱出の結晶の放つ光が強くなり、視界が白一色で覆われていった。
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