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第五章
世界樹の雄木
しおりを挟む買い物と観光をしながら、ヴェールの街中を歩いていると、中心部に不思議な木が生えているのを発見した。
「あれは……もしかして、この国に一本しかないって木かな?」
目先にはまるで祀られるように、太いしめ縄を巻かれた大木が聳え立っていた。
「なんか神聖な雰囲気を感じるな。」
「ワシにはただの木にしか見えんなぁ。木を祀るとは……人間の感性はわからんのじゃ。」
まじまじとレイが不思議そうに眺めている。
「そう言えば、この木……なんて名前なのか知らないな。」
この前見た文献には、詳しい名前は載っていなかった。試しにどんな木なのか……鑑定してみよう。
「鑑定。」
そう唱えると、俺の前にこの木の説明が表示された。
世界樹の雄木
・世界の限られた場所に生える、世界樹の雌木を受粉させる為の花を咲かせる木。
「え?世界樹……?」
表示された鑑定結果に思わず目を疑ってしまった。すると、イリスが補足して説明してくれた。
「実は、世界樹という木はこの世界に何本か点在しているんですよ。ただ……果実を実らせる雌の木は、エルフの国にある一本しかないんです。」
その説明は至極わかりやすいものだったが、一つある疑問を俺は抱いた。
「それじゃあ、この木になる果実はいったい?」
「世界樹の雄花は一見果物のように見えますから、それを果実と間違えているのかと。」
「そういうことか。」
ということは、俺達が明日競り落とす予定の果実というのは……世界樹の雄花ということになるんだな。
「ちなみに、この世界樹の雄花が雌花を受粉させると……何ができるんだ?」
「この世界の栄養と魔力をたっぷりと蓄えた、世界樹の果実ができますね。果汁一滴で、枯れた大地を蘇らせるほどの力があるんですよ。」
「ほぉ~……。」
余計に気になってきた。それを食べたらどうなるのだろう?どんな味がする?
「…………その世界樹の果実も気になるけど、何にせよエルフと会えないことには何も始まらないな。」
実をつけるという世界樹の果実は、エルフの国にある。彼らと接触する方法がない以上、その世界樹を拝むことすらも叶わない。
「なにか、きっかけがあればな。」
そんなことを願っていると、こちらに沢山の果物を抱えたフレイが走ってきた。
「ひ、ヒイラギさん!!お菓子に使えそうな果物たくさん買ってきたよ!!」
「ずいぶんたくさん買ったな。」
「えへへ、どれもこれも美味しそうで……気になる果物全部買っちゃったんだ。」
これだけたくさんの種類の果物があれば……色んなお菓子が作れるだろう。ケーキやタルト……フルーツシャーベットとかも美味しそうだ。
「後でこれを使って、一緒にお菓子作ってみるか?」
「うん!!」
フレイとそんな約束を交わしていると、先に買い物に走っていたシア達も、たくさんの野菜や果物を抱えてこちらに戻ってきた。
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