733 / 973
第五章
現れたミクモ
しおりを挟む「おぉ!!流石だな、レイ。」
「むはははっ!!ワシに掛かればこの程度簡単なのじゃ!!。」
レイが胸を張って笑っていると、向こう側……つまり獣人族の国の領地に魔法陣が現れた。その魔法陣が光を放つと、ある人物が姿を現した。
「なにやらとんでもない魔力の反応を感知して飛んで来てみれば……やっと戻ってきたかシン坊っ!!」
「み、ミクモ殿!?」
「ずいぶん留守にしてくれたのぉ~シン坊や?無論、苦労した妾に報いる何かは用意してきたのだろうなぁ?んん?」
鬼の形相でミクモはシンに詰め寄っていた。必死に状況を打開すべく、思考を巡らせていたシンは、俺のことをちらりと見ると、ハッ……と何かを思いついたようだ。
「そ、そうだ!!ミクモ殿、ひ、ヒイラギがミクモ殿の苦労を労うため、油揚げをたくさん贈呈すると言っていたぞ?」
もちろんそんなことは言っていない。シンの咄嗟の思いつきだ。だが、その思い付きが功を奏したらしく、ミクモは表情を明るくしながら、俺の方に歩み寄ってきた。
「それは本当なのか!?」
「あ~……まぁ、本当だ。」
「おぉ~っ!!それならば、今日この時まで頑張った甲斐があったという物よ。うむうむ……。」
今にもよだれを垂らしそうにしながら、ミクモは何度も頷いた。
もともとこちらに帰ってきたら、公務を頑張ったミクモに油揚げか稲荷寿司を、たくさん作ろうと思っていた。油揚げで機嫌が取れるのならば、いくらでも作って見せよう。
大量の油揚げを想像してにやけていたミクモだが、ようやく正気に戻ると現状の整理を始めた。
「ふむ、そちらの人間は……もしやアルマの子か?」
「曾祖父のことをご存じなのですか!?」
「いや、生憎詳しくは知らぬ。じゃが、一度顔を見たことがあってな。お前さんにはその面影がある。」
エートリヒとミクモが普通に会話できていることを見るに、ミクモは言語理解のスキルを持っているようだ。
「シン坊と共にいることから察するに、王座を取り戻したか?」
「はい、皆さんの協力のおかげで……この度新国王となりました。アドルフ・エートリヒといいます。」
「妾の名はミクモ。畏まることはないぞ?妾は王ではないからの。王はそっちのシン坊じゃ。」
シンのことを指さして、くつくつとミクモが笑っていると、話を聞いていたレイが口を開いた。
「なんじゃ、やはりミクモか。100年前とちっとも姿が変わっておらんな。」
「む?妾のことを知っておるのか?」
「知ってるも何も、ワシの顔を覚えておらんのか?」
「あいにく記憶力はよい方じゃが……記憶にないのぉ。」
「ならばこれならどうじゃ?」
そしてレイは元のクリスタルドラゴンの姿へと戻った。すると、ミクモは彼女のことを思い出したようで……。
「その姿……クリスタルドラゴンか!?ひさしぶりじゃなぁ~、人間に化けていた故まったく気がつかんかったぞ。お主の方こそまったく姿が変わっておらんではないか。」
「むはははっ!!姿は変わっておらんが、内情は大きく変わったのじゃぞ?」
そしてミクモとレイの二人は、昔話に花を咲かせていた。
同じ語尾で、のじゃのじゃと話している二人の姿は少し面白いものがあった。
そしてミクモとの再会を果たした後、俺達は獣人族の王宮へと招かれた。その場で改めてエートリヒとシンが、友好の証に握手を交わすことによって、再び人間と獣人との交流が始まったのだった。
3
お気に入りに追加
631
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる