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第五章
現れたミクモ
しおりを挟む「おぉ!!流石だな、レイ。」
「むはははっ!!ワシに掛かればこの程度簡単なのじゃ!!。」
レイが胸を張って笑っていると、向こう側……つまり獣人族の国の領地に魔法陣が現れた。その魔法陣が光を放つと、ある人物が姿を現した。
「なにやらとんでもない魔力の反応を感知して飛んで来てみれば……やっと戻ってきたかシン坊っ!!」
「み、ミクモ殿!?」
「ずいぶん留守にしてくれたのぉ~シン坊や?無論、苦労した妾に報いる何かは用意してきたのだろうなぁ?んん?」
鬼の形相でミクモはシンに詰め寄っていた。必死に状況を打開すべく、思考を巡らせていたシンは、俺のことをちらりと見ると、ハッ……と何かを思いついたようだ。
「そ、そうだ!!ミクモ殿、ひ、ヒイラギがミクモ殿の苦労を労うため、油揚げをたくさん贈呈すると言っていたぞ?」
もちろんそんなことは言っていない。シンの咄嗟の思いつきだ。だが、その思い付きが功を奏したらしく、ミクモは表情を明るくしながら、俺の方に歩み寄ってきた。
「それは本当なのか!?」
「あ~……まぁ、本当だ。」
「おぉ~っ!!それならば、今日この時まで頑張った甲斐があったという物よ。うむうむ……。」
今にもよだれを垂らしそうにしながら、ミクモは何度も頷いた。
もともとこちらに帰ってきたら、公務を頑張ったミクモに油揚げか稲荷寿司を、たくさん作ろうと思っていた。油揚げで機嫌が取れるのならば、いくらでも作って見せよう。
大量の油揚げを想像してにやけていたミクモだが、ようやく正気に戻ると現状の整理を始めた。
「ふむ、そちらの人間は……もしやアルマの子か?」
「曾祖父のことをご存じなのですか!?」
「いや、生憎詳しくは知らぬ。じゃが、一度顔を見たことがあってな。お前さんにはその面影がある。」
エートリヒとミクモが普通に会話できていることを見るに、ミクモは言語理解のスキルを持っているようだ。
「シン坊と共にいることから察するに、王座を取り戻したか?」
「はい、皆さんの協力のおかげで……この度新国王となりました。アドルフ・エートリヒといいます。」
「妾の名はミクモ。畏まることはないぞ?妾は王ではないからの。王はそっちのシン坊じゃ。」
シンのことを指さして、くつくつとミクモが笑っていると、話を聞いていたレイが口を開いた。
「なんじゃ、やはりミクモか。100年前とちっとも姿が変わっておらんな。」
「む?妾のことを知っておるのか?」
「知ってるも何も、ワシの顔を覚えておらんのか?」
「あいにく記憶力はよい方じゃが……記憶にないのぉ。」
「ならばこれならどうじゃ?」
そしてレイは元のクリスタルドラゴンの姿へと戻った。すると、ミクモは彼女のことを思い出したようで……。
「その姿……クリスタルドラゴンか!?ひさしぶりじゃなぁ~、人間に化けていた故まったく気がつかんかったぞ。お主の方こそまったく姿が変わっておらんではないか。」
「むはははっ!!姿は変わっておらんが、内情は大きく変わったのじゃぞ?」
そしてミクモとレイの二人は、昔話に花を咲かせていた。
同じ語尾で、のじゃのじゃと話している二人の姿は少し面白いものがあった。
そしてミクモとの再会を果たした後、俺達は獣人族の王宮へと招かれた。その場で改めてエートリヒとシンが、友好の証に握手を交わすことによって、再び人間と獣人との交流が始まったのだった。
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