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第五章

獣人族親善大使 ヒイラギ

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 遂に、新たな国王にエートリヒが選ばれたことによって、騒がしくなってしまっていた国の内情も見る見るうちに落ち着きを取り戻していった。

 そして今日、彼に呼び出されて俺は王城の会議室を訪れていた。会議室の扉をコンコンとノックすると……中からエートリヒの声が聞こえてくる

「入ってくれ。」

「失礼します。」

 中に入ると、そこには一切着飾っていないエートリヒが俺のことを待っていた。

「王冠とかは被らないんですか?」

「あぁいうのは、私の柄ではないのだよ。民の前に出るときだけで十分だ。……さて、まぁ座りたまえ話はそれからだ。」

 促されるがまま席につくと、さっそく彼は今日ここに呼び出した要件を話し始める。

「今日来てもらったのは他でもない。貴公に獣人と人間とを繋ぐ渡し船になってほしいのだよ。」

「俺に……ですか?」

「あぁ、貴公以外に適任はいない。彼らの言葉も理解できる。それに何よりシン殿とは友人なのだろう?」
 
「えぇ、まぁ……そうですが。」

「では決定だ。早速、この書類に名前を書いてくれ。」

 するとエートリヒは一枚の紙を差し出してくる。その紙にはこんなことが書いてあった。

『下記の者を王の権限によって、使に任命する。』

「獣人族……親善大使?」

「あぁ、これから獣人との関わっていく上で必要な役割だ。敢えて大臣に任命しないのは、貴公の自由を尊重した結果だ。大臣になって毎回会議に呼び出されるのは嫌だろう?」

「そうですね。それは勘弁願いたいです。」

 苦笑いしながらも、俺はその書類に名前を書いた。

「あぁ、一つ言い忘れていたよ。シン殿を獣人の国に送り届けた際に向こうからも同じものを渡されるだろうから、それにもきっちりと名前を書いてくれたまえ。」

「へ?」

「先日シン殿と話をしたのだよ。両国間で貴公を親善大使にすることを話し合いの末、決定したのだ。」

 俺の知らないところでそんな会議が行われていたなんて……。

「それと、もう一つシン殿との協議の上、あることを決定したことも知らせておこう。」

 コホンと一つ咳払いをしてからエートリヒは話し始める。

「シン殿を獣人の国に送り届ける際……両国間を隔てる壁に穴を開け、両国を繋ぐ道を作ることを決定した。」

 その決定は、二つの国にとってかなり大きな決定だ。その道が出来上がれば貿易も盛んに始まるし、お互いの国を簡単に行き来できるようになるはずだ。

 そうなれば獣人と友好関係を築けていた時のように、また親睦を深めることができる。

 一つ問題があるとすれば、この国の中には獣人のことを奴隷にしたいと思っている輩が少なからずいる可能性があるということだけ。でもその問題にエートリヒが気付いていないはずがないし、何かしら手は打ってくれるだろう。

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