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第五章

ドーナ、パスタへの挑戦

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 ソファーに腰掛け、シア達と話しながらコーヒーを飲んでいると、外からランとレイの二人が口喧嘩をしながら中に入ってくる。これもここ最近、毎日見る光景だ。

「あはは、またやってるっすね~。」

 苦笑いしながら、グレイスがこちらに飛んでくる。

「ここ最近毎日あんな感じだもんな。」

「でもランさんも楽しそうっす。」

「そうだな。」

 そんな事をグレイスと話していると、厨房からドーナが俺のことを呼んでいた。

「ヒイラギ、ちょっといいかい?」

「どうかしたか?」

「ちょっと…あ、味見してほしいんだけど。」

「わかった。今行くよ。」

 呼びかけに応じて厨房に入ってみると、そこにはもう後は盛り付けるのみとなったパスタが出来上がっていた。

「これを味見すればいいかな?」

「うん、お願いできるかい?」

 どうやらドーナが今回作ったのは、パスタの基本中の基本である、ペペロンチーノのようだ。

 彼女は出来立てのペペロンチーノを少し皿に取り、フォークとともに差し出してきた。それを受け取って、味見してみた。

「うん、塩気は大丈夫。ニンニクの香りもちゃんとオリーブオイルに移ってるし、鷹の爪の量もちょうど良い。」

「ほ、ホントかい!?」

「あぁ。でもあとほんのひと工夫加えればもっと美味しくなるぞ。」

 そして俺は彼女が作ったペペロンチーノにある工夫を施した。

「ほい、こっちがさっきドーナが作ったペペロンチーノ。で、こっちがそれにちょっとした工夫をしたペペロンチーノだ。」

 ドーナの前に小皿に盛った二種類のペペロンチーノを置く。食べ比べてもらうためだ。

「見た目からしてちょっと違うねぇ。」

「そうだな見た目も違う。それに味わいも違うんだぞ?まぁ、まずは自分で作った方から食べてみてくれ。」

「わかったよ。」

 ドーナは自分で作ったペペロンチーノを口へと運ぶ。そして少し味わってから飲み込んだ。

「その味と口当たりをよく覚えておくんだ。次はこっちを食べてみてくれ。」

 言われた通り、今度は少し工夫を加えたものを食した。すると驚きで目を見開いた。

「全然油っぽくない、それにパスタに味が絡んで凄い美味しい。」

「だろ?ドーナのペペロンチーノは味は悪くなかったんだが、ちょっと油の乳化が足りなかったな。」

 彼女の作ったペペロンチーノは、あまり乳化ができておらず、パスタ自体にソースがあまり絡まっていなかった。

「乳化をさせるコツは、このパスタを茹でたお湯あるだろ?こいつを使うんだ。」

 鍋に入って、未だ湯気がたっている少し白濁したパスタを茹でた後のお湯を指差す。

「これをかい?」

「あぁ、これを少しパスタに加えて……手早く振るうんだ。」

 そしてドーナにパスタソースの乳化のさせ方を目の前で実演して見せた。それ見ながら、ドーナはレシピ本にメモを書き綴っていく。なんか下働きしていたころの自分を思い出すな。ドーナの今の姿に昔の自分の姿を重ね、感傷に浸ってしまうのだった。
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