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第四章

一難去って

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「ふぅ~……。」

 シン……と静まり返った空間で、大きく息を吐き出した。ただ、辺りには首がない魔物の死体と、気絶した騎士達が横たわっていて、なんとも物々しい雰囲気となっている。

「あ、あれだけいた騎士と魔物を全部一人で……。」

「改めてとんでもないわ。」

「まったく動きが見えなかったよぉ~。」

 ルーカス達が俺のことを唖然とした表情で見ていた。まさか、一人で全てを片付けるとは思わなかったのだろう。

「本当に彼はいったい……バイル殿は何か彼について知らないのですか?」

「さぁな、ちょこっと調べてはみたが……冒険者ランクが銀級ってことしかわかんなかった。」

「あの実力で銀級!?そんなバカな……。」

 バイルやダグラス、カムジンまでも目を見開いてこちらを見ている。そんな彼らに、少し微笑みながら問いかけた。

「お怪我はありませんか?」

「「「あるわけないだろっ!!」」」

 すると皆一斉にそうツッコミを入れてきた。その反応に苦笑いしていると……。

「あら?ヒイラギもこの変な人間倒したの?」

 ランがハウスキットの方から一人、こちらに歩いてきた。

「ラン達も倒したのか?……念のため聞くけど殺してないよな?」

「大丈夫よ~、ちゃんと気絶させて縛ってあるわ。」

「それを聞いて安心したよ。みんなに怪我はないか?」

「それも大丈夫っ。誰一人かすり傷一つついてないわ。」

 ラン達も交戦したようだが、話を聞くかぎり誰一人として殺していないし、怪我もなかったようだ。ホッ……安堵のため息を吐き出していると、ダグラスが近づいてきた。

「つかぬこと伺うがそちらの女性は?」

「あ、ワタシ?ワタシはヒイラギのつm……。」

 ランがそう言いかけた時、彼女の肩にポン…と手がおかれた。

「つ……何だってぇ?アタイにもわかるように教えてほしいねぇ~?」

「げっ、ドーナ……。さっきまで中にいたのにっ。」

「ちょっとあっちで話をしようじゃないか。」

「あとちょっとだったのにぃ~!!」

 そしてズルズルと、ランはドーナに引きずられていった。

「彼女達は、旅の同行者です。」

「なるほど、さっきお前の言っていたことがよ~くわかった。」

「料理を作るべき人…とは彼女達のことですね?」

「まぁ、そういうことです。」

 バイル達はニヤリと笑いながら言った。恥ずかしさをまぎらわすため、そそくさと気絶させた人達を一ヶ所に集め、洗脳を解いていく。

 ある一人を除いて……。
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