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第四章

王都へ

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 朝食を食べ終えた後、王都へ向かうため準備を整えていた。

「グレイス、今回はちょっと長旅になるけど、頼むな?」

「任せてほしいっす!!日々の美味しい料理に報いるっすよ~!!」

 ふんす!!と荒い鼻息を吐き出して、気合いが入っている様子のグレイス。

「あ、念のため言っておくけど……いくら夜中にお腹減っても、他の人の馬車を引く馬は食べないようにな?」

「た、食べないっすよ~…………たぶん。」

 目を泳がせながら答えるグレイス。頼むからホントにそれだけはやめてくれ。

「グレイスは食いしんぼだからねっ!!」

「しんぱい。」

 シアとメリッサが大きくなったグレイスの頭をポンポンと撫でながら言った。

「それほどでもないっすねぇ~。」

「シア、褒めてないよ?」

「うん…ほめてない。」

「え゛っ!?」

 褒められていると勘違いして、てれてれしていたグレイスに二人が現実を突き付けた。 するとパックリと口をあけて、漫画で表現するならばガーンと効果音が付きそうなほど落ち込むグレイス。

「グレイスったら、シア達にすっかりからかわれちゃってるわね。」

「大きくなっても、小さくても扱いは変わんないみたいだねぇ。」

 シア達に遊ばれているグレイスを見て、ドーナ達は微笑んでいた。

「本当はグレイスに馬車を引いてもらいたかったが……それだと、いざって時に不利になるかもしれない。だから、今回は俺だけ乗せて走ってもらえるか?」

「もちろんいいっすよ~。でもなんで馬車はダメなんっすか?」

「馬車を引くと、グレイスの離脱手段が一つなくなる。あれを引いたまま飛べないだろ?」

「う……そうっすね。流石に飛ぶのは無理かもっす。」

「その場から即離脱できる手段は多いほうが良い。特にこの先何が待ち構えてるか、わからないからな。」

 グレイスを納得させたところで、他のみんなには一度マジックバッグの中に身を潜めてもらう。

 最後、シンがバッグの中に入る前に、彼に声をかけた。

「シン、今日一度エートリヒ以外の人達にもシンのことを紹介しておきたいんだが……いいか?」

「そんな事か、一向に構わぬ。」

「それじゃ、後で落ち着いたら声をかけるよ。」

「うむ、ヒイラギも気をつけるのだぞ。」

「あぁ。」

 そしてシンもバッグの中へと入っていく。いつものようにバッグを肩から提げようとすると、突然メリッサがひょっこりと顔だけ出した。

「メリッサ、どうしたんだ?」

「ぱぱに…みはり…つける。」

 そう言ってメリッサは魔法陣を出現させると、そこから一匹のハチを呼び出した。

「ぱぱに…きけん…おしえて。」

 メリッサの命令を聞くと、ハチは彼女に向かってビシッと敬礼し、俺の頭に乗っかった。

「それじゃ…おねがいね。」

「メリッサ、ありがとな。」

 ぽんぽんと頭を撫でてあげると、メリッサは満足したように戻っていった。

「よしグレイス、行くか。」

「了解っす!!」

 グレイスに跨ると、とてつもない速度で待ち合わせの場所まで駆け抜けていったのだった。

 そして、いざバイル達との待ち合わせ場所であるマーレの関所の前に近付くと、そこに既に馬に乗った一団が待機しているのが見えた。
 そしてこちらに気が付いたバイルが声を荒げた。

「なっ……な、なんてもんに跨ってんだ!?あんたはッ!!」

 バイル達はグレイスを見てとても驚いている。

「安心してください。ちゃんと言うことを聞くいい子ですから。」

 そう言うと、グレイスはどこか誇らしげな表情を浮かべていた。

「いや、まったく……貴公は本当に退屈させてくれないな。」

「ワイバーンを旅の足にするなんて聞いたことないわ。」

「馬より速いから便利ですよ?」

 なんだかエートリヒ達に呆れた目で見られているが、馬なんていらないほどグレイスは速く力強い。それに馬と違って空を飛べるし、何より知能も高い。

「さ、早く行きましょう。俺は皆さんの後ろからついていきます。」

「……わかった。皆行くぞ。」

 納得してくれたバイルは、乗っている馬に鞭を打ち先頭を走り始めた。それに続きダグラスとカムジン達も馬を走らせる。

「お~、流石に馬の扱いには慣れてるんだな。グレイス、追い付けそうか?」

 走り始めたバイル達を眺めて、グレイスに問いかける。

「大丈夫っす!!……ヒイラギさんはあんな風に鞭を打ったりしないっすよね?」

 と、何故か心配するようにグレイスは言った。そんなことするはずがないのだが、ちょっとからかってみるか。

「そうだな~……馬を食べようとする、わる~い奴には鞭を打つかもな?」

 ニヤリと笑いながら、バッグから馬車に付属してきた鞭を取り出し、ピシャッ……と音を鳴らした。するとグレイスがビクッと反応する。

「ぴぅっ!?あ、あはは~……ぜ、絶対食べないっす。」

「っと、冗談はさておき……結構離されたな。」

 グレイスと話していると、走り始めたバイル達と結構距離ができてしまった。そろそろ行かないと。

「それじゃあグレイス行ってくれ。」

「了解っす!!馬との種族の違いを見せてやるっすよ!!」

 そしてグレイスは、ぐんぐんバイル達との距離を縮めていった。
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