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第四章

山葵

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 そしてリリンの口の中へ、山葵入りの寿司が運ばれてしまった。

「あ~んっ!!う~ん、美味し………~~~っ!?」

 大きな口をあけて、山葵入りの寿司を食べたリリンは最初は美味しそうな顔をしていたが、何回か咀嚼するとカッと目を見開き、口を押さえて悶絶し始めた。

「あ~……だから皆のと分けて盛り付けたのに。」

「お、お姉様どうしちゃったの?」

 隣で口を押さえて悶絶しているリリンを見て、フレイが心配したように言った。

「皆の寿司には使っていないものが、俺の寿司には使われててな、それがこれだ。」

 自分用に分けてあった寿司の一つのネタを捲って、シャリをフレイに見せた。

「もしかしてこの緑色のやつ?」

「そう、これは山葵って言ってな。鼻を突き抜けるような辛さが特徴の野菜なんだ。ただ、これは唐辛子とかの辛さと違って……ほら、リリンこれを飲めば辛さが消えるぞ?」

 フレイに説明しながらも、リリンに暖かいお茶を差し出した。すると、リリンはプルプルと震える手でお茶を受け取り、一気に口の中へと注ぎ込んだ。

「んっ、んくっ……ぷはぁっ!!び、ビックリしたぁ。」

「な?楽になったろ?」

 山葵の辛さは水溶性。だからお茶とかを飲めば、だいぶ緩和することができる。ただし、唐辛子などの辛味成分のカプサイシンは脂溶性……つまり脂に溶ける性質を持っている。だから単なる水やお茶よりも、牛乳などの脂肪分が含まれている飲み物の方が辛さを中和しやすい。

「ヒイラギ、あなた何てもの食べてるのよ……。」

「リリン達は、まだこの山葵を食べ慣れてないからそう思うんだろうけど、普通寿司にはこの山葵ってのをつけて食べるんだぞ?」

「そ、そうなのね……。」

「ま、今は普通に山葵抜きの寿司を食べれば良いさ。まだまだ残ってるだろ?」

「えぇ、そうするわ。」

 そして大人しくリリンは、山葵が入っていない方の寿司を食べ始めた。

 料理を分けているのには、しっかりと理由があるってことをわかってくれたはずだ。そんなリリンを眺めていると、シンが俺に話しかけてきた。

「ヒイラギよ、我にもその……というのが入った寿司を一つくれぬか?」

「ん?別に良いけど……なんだ?気になるのか?」

「うむ。」

 別に断る理由もないから、シンに山葵が入ったブラックファッティの赤身の寿司を手渡した。

「む、感謝する。」

 そしてシンはそれを一口で口の中へと放り込み、咀嚼し始める。

「んむっ!!我はこちらの方が好みだな。これがあればさっぱりとして、いくらでも食べられそうだ。」

「お?本当か?なら少し分けてやるよ。」

 どうやらシンは山葵が大丈夫らしいので、少し山葵入りの寿司を分けてあげた。彼はそれを嬉しそうに受け取って、食べ始める。
 それから少しすると、あっという間に握った寿司は無くなり、楽しい夕食の時間は幕を閉じた。
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