上 下
664 / 1,052
第四章

己を越えて

しおりを挟む

 …………もう一人の自分と打ち合い始めて、どれくらいの時間が経過しただろうか?一向に勝負が着く気配がない。

 それもそのはずで、相手は自分。どう動くかが完全に読まれているし、読めている。

「完全に実力は同じか。」

 実力はまったく同じだが、どうやらあっちにスタミナという概念はないらしい。持久戦になればなるほどこっちに不利になる。いやらしい設定だな。

 だが、そうとわかれば話は早い。

「龍桜。」

 龍桜を発動すると、もうひとりの自分も同じく発動させてくる。

「そう来るよな。」

 そしてお互いの全力で打ち合うと、完璧に対処できない攻撃の連続で、徐々にお互い削られ始める。

 これじゃダメだ。もっと、進化を……。

 以前シーデビルを貫いた時に体得した、散桜を一点に集中させて放つ攻撃もお互いに繰り出せる。コレが今の俺の限界だ。

 となれば、今ここでこの先を……こいつよりも先に見出す必要がある。

「ふん!!」

 お互いに拳をぶつけ合い、動きが止まった所で大きく飛び退く。

「ここからは……新しい挑戦だ。」

 龍桜を完成させた時……どうしても併用するにはリスクが高かったスキルがある。

「全身体能力強化……っ!!」

 このスキルは身体能力を大幅に引き上げるというもの。龍桜との併用を試したが……全身を龍化させても肉体が耐えられなかったのだ。

「ぐっ……くっ!!」

 どれだけ龍化で補おうとも、ブチブチと鱗の下で筋肉が千切れていく。

 そして俺がこれを発動すると、相手も同様に発動させ始め、お互いに極限状態に突入した。

「さぁ、どっちが先にこれを克服できるか……勝負だ。」

 お互いに同時に地面を蹴ると、爆ぜるような爆音が響き渡る。思い切り踏み込んだせいで、片方の足がぐちゃぐちゃだ。

 しかし、それは相手も同じ。

 片足を犠牲にした状態で拳を交えると、お互いにどんどん自分の力に押し潰されていく。一歩も引かない攻防が続くかと思いきや、突然……もう一人の自分は全身体能力強化を解除した。

「諦めたなッ!!」

 安全策を選んだ時点で、進化をやめたも同然。挑戦し、強さを求める者には敵わない。

「ぐぐっ、肉質硬化ッ。」

 今使えるものを……全て出し切るッ!!

 更にスキルを重ねがけすると、皮下で筋肉がちぎれる音が止んだ……。肉体が苦痛から解放されると、一気に体が軽くなる。

 一歩踏み出すと、音を置き去りにして俺はもう一人の自分の背後をとった。

「俺の勝ちだな。」

 サンダーブレスを纏わせた手刀を横に薙ぐと、もう一人の自分の体が真っ二つに両断され、砂となって崩れ落ちた。

 勝利を確信して、発動させていた全てのスキルを解除すると、猛烈な筋肉痛が襲ってきた。

「いだだだっ……これは使った後がキツイな。」

 全身に走る筋肉痛に顔を歪めていると、もうひとりの自分が出てきた鏡も砂となって崩れ落ちた。

「今のがボスってことでいいんだよな?」

 辺りをキョロキョロと見渡すと部屋の奥の壁が動き、次の部屋へと続く道ができた。

「バフォメットのダンジョンと同じなら、あの奥に宝物があるはずなんだが……。」

 奥の部屋へと歩みを進めた。すると中にはやはり豪華な宝箱が置いてあった。

「やっぱりか。中身は何かな?」

 バフォメットのダンジョンでは神華樹の種が手に入ったんだよな。ここのダンジョンでは何が手に入るのだろうか。期待で胸を膨らませながら、宝箱を開けた。

「ん?これは……宝玉?」

 中から出てきたのは、俺のスキルで作られる宝玉のような光輝く水晶玉だった。いったい何の?

「鑑定を使えばわかるか?」

 俺は宝箱から出てきた、水晶玉に向かって鑑定を使った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

処理中です...