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第四章
ババ抜き
しおりを挟むババ抜きを始めて少しすると、一人…また一人とあがっていき、最後に残ったのはドーナとランの二人となった。
「うぐぐ……さ、さぁ引きなさいドーナ!!」
ランは自分の手に残った二枚のカードをドーナに差し出す。二枚のうち片方はスペードのA、そしてもう片方は言わずと知れたジョーカー……つまりババだ。
ドーナはどちらがジョーカーかを見極めんと、二枚のカードに交互に手を伸ばし、ランの顔色を窺う。
ランはなんとしてもバレまいと、ポーカーフェイスを貫いているため、表情から読み取ることは困難だろう。
「……決めたよ。」
ポツリとドーナはそう呟くと、二枚のカードのうち一枚を指で摘まむ。そして、一気にランの手から引き抜いた。
次の瞬間、ドーナの表情が驚愕に染まる。そう、何を隠そうドーナが引いたのはジョーカーだったのだ。
「ッ!?」
「ふっふっふ~♪どうやら運は、このワタシに味方してるみたいね。さぁカードを出しなさいドーナ!!これで決めてあげるわ!!」
形勢逆転とばかりに強気になるラン。一方のドーナは顔を一粒の冷や汗が伝っていた。
「お姉さん達凄い!!」
「どきどき…。」
みんなが固唾を飲んで見守るなか、ドーナはシャッフルしたカードを、ランの前に差し出した。
「さぁ、引きなよ。」
「言われなくても……。」
ランも先程のドーナと同様に、二枚のカードに交互に手を伸ばしドーナの表情を窺う。そして片方のカードに手を伸ばしたとき、ポーカーフェイスを貫いていたドーナの眉が、ピクリ……と動いてしまった。
「ふふ、見えたわ!!ワタシが求めてるカードは、こっちよ!!」
その僅かな動きを見逃さなかったランは、一息にドーナの手から一枚のカードを引き抜いた。
「この勝負ワタシのか……ち?」
「甘いよ、まんまと罠にかかったねぇ……ラン?」
勝ち名乗りをあげようとしたランを見て、ドーナがクツクツと不敵に笑う。
「う、嘘……またババが。」
「アタイの眉が反応したのを見て、そっちを選んだんだろ?残念だったねぇ。」
どうやらドーナは一芝居うったらしい。それにまんまとランは嵌まってしまったと……表情を気にかけすぎたが故の失敗だ。
「くうぅ、してやられたわ。」
「今度はアタイの番だ。カードをだしなよ。」
ギリリと悔しさで歯を食い縛りながら、ランは再びカードを差し出す。すると、ドーナはランの表情を一切気にかけずに、直感で一枚のカードを引き抜いた。
そのカードを手元に引き寄せた瞬間、ドーナの顔がほころんだ。
「よっし!!アタイの勝ちだよ!!」
「ま、負けちゃったわ。」
ガクリとランはババを持ったまま項垂れる。今回の勝負はドーナの作戦勝ちだったな。
「さ、落ち込んでる暇はないぞ?もう一勝負しよう。」
「え、あ…う、うん!!そうね、今度こそ負けないわよ~!!」
「今度は我もやりたいぞ!!」
「自分も混ぜてほしいっす~!!」
「わ、私も混ぜなさいよ…。」
そして新たにシン達を入れて、二回目のババ抜きが始まったのだった。
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