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第四章
シン……登場
しおりを挟む一通り話終えると、話している間終始無言でいたエートリヒが口を開いた。
「にわかには信じがたい話だな。」
「信じられないなら、きちんとした証拠を提示することもできます。ですが……。」
「その証拠を見たら後には戻れない…と言いたいのかね?」
「はい、それでも見る覚悟はありますか?」
俺がそう問いかけると、彼は腕を組みうつむいた。考えているのかと思いきや……。
「クク、ククク……。」
あろうことかクツクツと笑い始めたのだ。
「何かおかしいことでも?」
「いや、すまないね。貴公の話がおかしかったわけではないんだ。」
先程までうつむいていた彼は、スッと顔をあげて俺の目をじっと覗き込んだ。
「ただ嬉しかったんだよ。私と同じ考えを持つ人間がいることがね。私も獣人と戦争はすべきではないと考えていた。ただ、私一人では何かできるわけでもなくてね。つまるところ、私も信頼できる協力者を探していたというわけだ。」
彼は言い終わると、手に持っていた紅茶のカップをテーブルに置き、こちらにスッと手を差しのべてきた。
「私は後に戻るつもりは毛頭ない……。いや、もう後ろはないのだよ。だから貴公に協力させてはくれないだろうか?」
差し出されたその手をギュッと握り返す。
「その言葉を待っていました。それでは、確たる証拠というやつをお見せしましょう。シン、出てきていいぞ。」
そう告げると……。
「む!?もう我の出番か!?」
バッグからシンがひょこっと顔を出した。そしてのそのそとバッグから這い出てきて、エートリヒの前に立った。
「ま、まさか……本物の獣人族かね!?」
「はい、しかもただの獣人族じゃなく……獣人族の王です。」
彼は開いた口が塞がらない……といった様子でシンのことを見つめていた。いきなり目の前に獣人が出てきたら、ビックリするのも無理はない。それもただの獣人族じゃなく、その中の王だからな。
「ヒイラギよ、彼が例の人物なのか?」
「あぁそうだ。快く協力してくれるらしい。」
「そうか、では安心であるな。ごほん……驚かせてすまぬ。我はシン、獣人族の王だ。よろしく頼む。」
シンは自己紹介をすると共に、エートリヒに手を差し出した。
「き、貴公は彼の言葉がわかるのかね?」
「えぇ、獣人族の言葉は一通り話せますよ。」
「つ、通訳してもらってもよいだろうか。」
あぁ、そっか普通はこうなんだよな。彼からしたら、シンが何を喋っているのか全くわからないのだろう。
「我はシン、獣人族の王だ。よろしく頼む……って言ってます。」
シンが言った通りに私はエートリヒに伝えた。
「お、おぉ……。わ、私はアドルフ・エートリヒ。どうぞお見知りおきを……。」
アドルフも自己紹介を終えると、シンの手を握り返した。するとシンは首をかしげながら、こちらを向いて言った。
「ヒイラギ、この御仁は何と言っておるのだ? 」
そういえばお前もか……。後でシンにも言語理解のスキルを持った宝玉を食べさせた方がいい気がする。その方が今後楽に進むだろう。
そんなことを思いながら、俺はシンとエートリヒの言葉を通訳するのだった。
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