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第四章

先客

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「グレイス、あの街の向こうにある丘見えるか?」

 俺は街の向こうに見える丘を指差した。

「見えるっす。あれがどうかしたんすか?」

「あそこにハウスキットを建てようと思う。街道から離れてるし、そうそう人は来ないと思うんだ。」

 あの密林の中には建てられる場所はなさそうだし、かといって広い海岸は人目につく。

「じゃあ一旦あそこを目指せばいいっすか?」

「そうだな、街に入る前に一旦あそこに向かおう。」

 そろそろ昼飯時だし、みんなも馬車に揺られてつかれてるだろう。一度ハウスキットを建てて休憩をしてから街に向かった方がいいはずだ。

 そして一度街を迂回して丘の方へと向かう。 いざ街の向こうに見えていた丘へとたどり着くと、そこには既に先客がいた。

「ヒイラギさん、なんかいるっす。」

「あぁ、見えてるよ。どうやらここを住み処にしている魔物みたいだな。」

 その魔物は大きなぶよぶよのゼリー状の魔物だった。最初この世界に来る前に受けた、チュートリアルで戦ったスライムを大きくしたような感じの魔物だ。

「目もないし、体の正面もわからないから……こっちに気が付いてるのかわかんないな。」

「どうするっすか?」

「こっちに敵意があるなら倒すし、無いなら無視する。」

 敵意がないなら無理して倒す必要はない。別にあのスライムみたいなのがいても、ハウスキットを建てられるスペースはあるからな。

「グレイスはここで待っててくれ、ちょっと近付いてみるよ。」

 馬車から降りて一歩踏み出すと、ヒュン…という風を切るような音とともに、足元に水のレーザーのようなものが放たれた。咄嗟に一歩下がって躱すことには成功したが、着弾した地面はジュワジュワと音を立てて溶け始めている。

「なるほど…あの時のスライムみたいに一筋縄ではいかなさそうだな。」

 迂闊に触れない厄介な魔物だが、唯一の救いはあの大きな核。あれが弱点で間違いないだろう。

「さてさて、どうやって倒そうかな。」

 一応液体みたいだし、凍らせればいけるかな?そう思って俺は例のごとくあれを使うことにした。

「ブリザードブレス。」

 冷気のブレスが直撃したスライムは、あっという間にパキパキと音を立てて凍っていった。

「後は溶ける前に……ふんッ!!」

 凍ったスライムに蹴りを叩き込むと、核もろとも粉々になった。これで一先ず安全は確保できただろう。
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