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第四章

故郷の匂い

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 シュベールの湖を出発してから数時間……ひたすらに街道を突き進んでいると、徐々に海が近付いてきたのか、風にのってほのかに磯の香りがする。

故郷ふるさとの匂いがするな。」

 俺の故郷も海が近かったからな。こういう磯の香りを嗅いでいると、どうしても思い出してしまう。

「ヒイラギさんの故郷には海があったんすか?」

「あぁ、あったよ。」

「羨ましいっす~、魚食べ放題じゃないっすか~。」

「魚食べ放題…か。」

 確かに俺が子供の頃はとても魚がたくさん獲れていたが、年を重ねる度にどんどん不漁になってきてたからな。前まで普通に一般家庭でよく食べられていた魚が高級魚になったり…もともと数がそんなに取れない、比較的希少価値の高い魚がもっと獲れなくなって、とんでもない値段になったり。

 そんな背景もあって、俺が大人に近づくにつれて食卓に魚が並ぶことがどんどん少なくなった。

「マーレではたくさんいろんな魚がいればいいな。」

「自分お刺身が食べたいっす!!ご飯の上にいっぱいのせて食べるっす!!」

 刺し身がたくさんのったご飯を想像しているのだろうか、グレイスの口からよだれがこぼれ落ちそうになっている。きっと今のグレイスの姿を他人が見たら、恐怖で腰を抜かしてしまう人もいるだろう。何せ傍から見たら、ゴツいドラゴンが口からヨダレを垂らしているようにしか見えないからな。

「グレイス、よだれ垂れてるぞ。」

「うえっ!?ほ、ホントっす…気を付けるっす。」

 妄想の世界から戻ってきたグレイスは、口元に垂れていたよだれを拭った。

「それにしても、磯の香りはするのに全然海が見えてこないな。」

 というのも、今はまるで密林のようなところを馬車で進んでいるため、辺りが背の高い草や木に囲まれている。そのためなかなか視界が開けず、海の存在を見つけられていない。

 そんな道を進んでいると、グレイスが前方に何かを見つけたようだ。

「ヒイラギさん!!あそこになんか黄色いの生えてるっす!!」

 前足でグレイスが指差した方には、黄色い果物のようなものが道端に生えていた。形はパイナップルにとても似ている。まだちょっと青いけど、パイナップルと同じような果物なら、常温に置いておけば熟すだろう。

「これ野生のやつだよな?」

 辺りをキョロキョロと見渡すが、この付近に実っているのはこれだけのようだ。栽培してるならもっとたくさんあるだろうしな。

 バッグからナイフを取り出して、パイナップルのような果物の付け根に刺し込んだ。すると思いもよらない出来事に見舞われる。
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