転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる

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第四章

イリス初めての炒め物①

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 ドン……という何かが落ちるような音で目が覚めた。キョロキョロと周りを見渡すと、シンがソファーから落ちてしまっていた。

「やっぱり落ちたか。」

 だが、落ちたにも関わらずシンは未だに目を覚まさない。もしかしたら落ちたことにすら気がついていないのかもしれない。

「このままにしておくのはかわいそうだからな。戻しておいてやるか…いよっと!!」

 シンの脇の下に手を入れて持ち上げ再びソファーの上に寝かせ、上から毛布を掛けてやった。

「これでよしっ。」

 他の皆もまだぐっすり眠っているようだな。これだけぐっすり眠れているなら、今日の旅路も問題ないだろう。

「さて、それじゃ朝御飯を作り始めるかな。」

 今日は馬車の移動じゃなく徒歩がメインだからな。それに耐えられるように、朝はなるべく腹にたまるものを作りたい。
 そんなことを考えながら俺はコックコートに着替え厨房へと向かった。

「おはようございますヒイラギさん。」

「ん、おはようイリス。」

 厨房へと向かうとコックコートを身に纏ったイリスがいた。朝食を作るのを手伝ってくれるようだな。

「今日何を作るんですか?」

「それがな、まだ決まってないんだよ。」

 寝起きだから頭も働かないし、なかなかいい案が出てこない。取りあえず残ってる食材を台の上に並べてみて何が作れるのか考えてみるか。
 俺はマジックバッグに手を入れて余っている食材を次々に台の上に並べていった。

「食材がいっぱいですね!」

「買いだめしてるからな。」

 今一緒に旅をしているメンバーはみんな食べる人ばっかりだ。このぐらい買いだめしておかないと、頻繁に買い物にいかなければならなくなってしまう。

「あ~っと、サラマンダーの肉はちょっと朝からは重たいかな。肉を使って腹持ちのいい朝食……。」

 思考を巡らせていると、昨日麻婆豆腐を作った時に使った挽き肉が余っているのが目に入った。ちょうどいいや、この挽き肉を使ってしまおう。

「じゃあ今日は野菜とご飯を一緒に食べられるタコライスにしようか。」

 タコライスなら挽き肉も使えるし、何よりご飯だから腹にもしっかりたまる。今日の朝食にはぴったりだろう。

 そうと決まれば早速仕込み始めようか。タコライスに使う食材を準備していると……。

「ヒイラギさん、…ってどんな料理なんですか?」

「タコライスっていうのは、タコスっていう料理のアレンジ料理なんだ。それでタコスっていうのは……。」

 俺はイリスにタコライス及びタコスの説明をした。つまるところタコスは、具材をトルティーヤで包んでサルサソースで食べるが、タコライスはタコスのトルティーヤがご飯に変わっただけ。
 厳密にいえば少し違うんだが、まぁこういう解釈で大丈夫だ。

「なるほど、わかりました。じゃあ私は野菜を切ったりすればいいんですね?」

「うん、そうしてもらおうと思っていたんだが……。」

 イリスは他のみんなより少しだけ料理の経験値が多い。そろそろ切りものだけじゃなく、炒めものとかもやらせてみてもいいだろう。

「今回は俺が切りものをやるから、イリスが挽き肉を炒めて味をつけてみてくれ。」

「わ、私がですか?」

「あぁ。そろそろ切りものには慣れただろうからな。次のステップだ。」

「できるでしょうか…。」

「大丈夫、俺がしっかりサポートするから。気楽にやってみたらいいさ。」

「わかりました。お願いします。」

「それじゃあ野菜を切りながら指示を出すから、それにしたがってくれ。」

「はいっ!!」

「先ずはそこに立てかけてあるフライパンを火口の上において火をつけてくれ。」

 イリスに指示を出しながら野菜を切り始める。慣れれば手元を見なくても切りものはできるからな。これぐらいだったら朝飯前だ。

「それじゃ次はそのフライパンに油を馴染ませて……。」

「こ、このぐらいでいいですか?」

「あぁ、大丈夫だ。そしたらまずはこの玉ねぎを炒めてくれ。」

 油が馴染んだフライパンにみじん切りにした玉ねぎを入れる。  

「後は少し茶色くなるまでそこの木ベラで混ぜてくれ。火が強いと思ったら弱めてもいいぞ。」

「わかりました。」

 少し緊張しながら、せっせと慣れない手つきで玉ねぎを炒めるイリス。初めて火を扱うときは誰だって緊張するものだ。

 さて、今のうちにこっちも野菜を切り終えてしまわないとな。イリスが玉ねぎを炒め終わる前に、こっちも切りものを終えてしまわないといけない。

「少しペースを上げるか。」

 イリスのことを気にかけながらもトマトにアボカド、レタス、玉ねぎを切っていく。そして俺が切りものを終えると、イリスから声がかかった。

「ヒイラギさん茶色くなってきました!!」

「わかった。それじゃ一回火を止めていいぞ。」

 切った野菜を別々にバットに並べて、俺はイリスのもとへと向かった。
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