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第三章
賑やかな食卓
しおりを挟む箸でうどんをつかんで啜る。ツルツルとした食感が心地いい。それに出汁もやさしい味わいで、食欲が出にくい朝でもとても食べやすい。
「うん美味しい、油揚げもかんだ瞬間にじゅわっと甘辛い出汁が出てきていい感じだ。」
キツネうどんを味わっていると、何やらシンとミクモが話している。
「おい、シン坊!!その油揚げ食べぬのか?」
「む?最後に食べようと思って残していただけだが……。」
その気持ちはわかるぞ、好きなものは最後に食べたい派なんだな?
その気持ちに共感していると……。
「むっふっふ♪無理せずともよいのじゃ!!妾が食べてしんぜよう。」
「ま、待つのだミクモ殿!!食べると言っているのだ!!」
シンの油揚げをフォークで刺したミクモは自身の口の中へ放り込もうとしていた。だが、シンもそれだけは許せなかったようで、ミクモの両腕を掴み油揚げを奪い返そうと必死になっている。
「んぎぎぎ~!!は、離すのじゃ~!!」
「いくらミクモ殿とて、ヒイラギの飯は譲れぬ!!」
「おいおい二人とも喧嘩はやめてくれ。それにミクモ、油揚げはまだ残って……ってもう無い!?」
山盛りに盛ってあった油揚げはもう影も形も無くなっていた。
「ぬぐぐ……この手は使いたくはなかったが、仕方ない!!」
「そんな無駄なことをする前にこの手をはなすのじゃあ!!」
そしてシンがとった行動は……。
「ふん!!」
「ふひゃあッ!?」
シンは片手でミクモの片耳をつまんだ。さっきそこがミクモの弱点だったというのは、みんなにバレているからな。
「大人しく離すのだ!!ミクモ殿~っ!!」
「わ、わりゃわもこりぇだけは……譲れんのじゃあ!!」
呂律が回らなくなっているにも関わらず、ミクモはシンの油揚げを離そうとしない。そして悲劇が起こる。
「むっ!?」
「あぁ!?妾の油揚げがぁ!!」
何かの拍子にスポンと油揚げがフォークからすっぽ抜け、宙を舞った。そして落下した先には……。
「んぐんぐ……ぷはぁ!!美味しかったっす~……むごッ!?」
うどんの汁まで飲み干して、大きく息を吐き出していたグレイスがいた。
大きく口を開けていたため、油揚げが落下点だったグレイスの口の中に吸い込まれていった。
「んふ~♪何かわからないけど美味しかったっす!!」
「わ、妾の油揚げが……。」
この世の終わりのような表情を浮かべていたミクモだったが、すぐに鬼の形相でシンのことをにらみつける。
「シン坊!!お主のせいで妾の油揚げが食べられてしまったではないか!!」
「み、ミクモ殿…あれはもともと我のものだったのだが……。」
「問答無用じゃ!!そこに伏せい!!」
「ぐぬぅ!?」
シンの頭にミクモのげんこつが振り下ろされ、ゴチン!!という生々しい音が響いた。
「な、なぜ我がこんな…めに……ガクッ。」
沈んだシンの頭に二つ目のたんこぶが出来上がった。何はともあれ、今日は一段と賑やかな食卓だったな。
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