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第三章

コックコートとミクモ

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 ロッカールームでコックコートに着替えて厨房へ向かおうとすると、興奮した様子のミクモに道を塞がれた。

「なんじゃお主!!その服は!!」

「ん?俺のコックコートだが……どうかしたのか?」

「どうしたもこうしたも無いのじゃ!!この服……妾の知らぬ素材でできておるじゃろ?」

 確かこのコックコートの素材はポリエステルと綿の混合だったはず……。多分この世界には無いものだ。
 見ただけで知らない素材だと見抜くとは、やはりその道のプロなんだな。

「そうだな、ミクモ達は知らないかもしれないな。」

「この素材凄いのじゃ……。」

 着ているコックコートをまじまじと見て、ミクモは呟いた。

 まぁコックコートは耐水性、耐火性に優れているし、更にはポリエステル混合の物はシワもできづらい。

「のぉ、主ぃ~?それ妾に一着くれんかのぉ?」

「これか?ん~……ちょっと待っててくれ。」

 確かまだコックコートは何着かあったはず……。

 ロッカールームへ戻り、封を開けていないコックコートを探す。

「やっぱりあった。これでいいだろ」

 新品のコックコートを手に取り、ミクモのもとへと向かう。

「ほい、これでいいか?」

「おぉ!!感謝するのじゃ!!」

 コックコートを受け取ったミクモはとても喜んでいるようだった。

「むっふっふ♪これでまた更に妾の技術が向上するのじゃ~。」

「喜んでもらえたようで何よりだ。」

 さて、シア達を待たせているからな……さっさと厨房へ行こう。

 前掛けをギュッと締めて、厨房へと向かった。

「すまない、待たせたな。」 

「全然待ってないわ?それよりも早く始めましょ?」

「そうだな。それじゃあ、まずはこれをみんなに切ってもらおうかな。」

 洗ったネギを一本、まな板の上に置いた。

「これはこう薄く切るんだ。」

 ネギを薄く小口切りしていき、水で洗う。

「こんな風に水で洗ったとき、輪っかがきちんと出来ていれば野菜を切るのがうまい証拠だぞ?」

 野菜を切るのが上手いのか下手なのかは、ネギを切らせれば一発でわかる。
 だからだいたいの日本料理店などでは、入社したての新社員にはネギを切らせ、切り物が下手なのか上手いのか見極めるのだ。

「ふ~ん、ワタシが一番上手いってことをここで証明する良い機会ね。」

「へぇ、アタイを差し置いて一番になるつもりかい?」

「あら?何よ、やるつもり?」

「一番の座は譲れないからねぇ。」

「ワタシだってそこは譲れないわ。」

 そして二人はまたしても熱い火花をちらし始める……。

 つくづく思うが、本当にこの二人は仲が良いな……。

 そんな燃えている二人の傍らで、シアもフンスと鼻から強く息を吐いて気合い充分な様子だ。

「シアも頑張る!!」

「うんうん、頑張るのは良いが……手を切らないように気をつけるんだぞ?あの二人みたいに焦っちゃダメだ。」

「うん!!わかった!!」

「グレイス、シアのことはしっかり見ててくれよ?」

「任せてくださいっす!!」

 よし、じゃあ俺は別の仕込みを始めよう。
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