上 下
396 / 1,052
第三章

不幸なシン

しおりを挟む

 そして中に入ってきたのは……。

「む?なんだ、もう喧嘩はおさまっておるではないか。」

 恐らくミクモとドーナ達が喧嘩をしていると聞きつけて、駆けつけたシンだった。

(ナイスタイミングだ!!)

「シン!!ちょっと頼んだ!!」

「むっ!?ヒイラギよどこへ行くのだ?」

 シンが入ってきたことによりできた、三人の隙をついて俺は医務室を飛び出した。

「シン坊!!お主はなんと間の悪いヤツじゃ!!あやつが行ってしもうた!!」

 ヒイラギを追いかけて医務室を飛び出したミクモだったが、既に辺りにヒイラギの姿はなかった。

「シ~ン~坊~っ!!」

 踵を返して、ミクモは真に鬼の形相で迫る。

「み、ミクモ殿!?お、落ち着いて欲しいのだ!!」

「これが落ち着いておられるわけ無いのじゃ!!このッ……たわけ!!」

「ぐぬぅ!?」

 怒髪天を衝かんが如く怒ったミクモは、シンに全力でげんこつを喰らわせた。

「な、なぜ我がげんこつを喰らわねばならん……のだ。」

「ふん!!妾の邪魔をした罰じゃ!!」

「理不尽…ガクッ。」

 そしてシンは頭頂部に大きなたんこぶを作り地に伏した。

 そんなことが起きている最中、当のヒイラギは人気の無いところでいそいそと道着と袴を身に付けていた。

「うん、凄いしっくり来る。」

 生地も全然ごわごわしてないし、違和感は全くない。

「少し動いてみるか。」

 道着と袴を着こんで体を動かす。新しいから少し固いかと思ったが、しなやかで体の動きを阻害することがない。

「日本にいたときでも、こんなに軽くて動きやすいの着たことないな。」

 これはいいものを作ってもらった……改めてミクモにはお礼を言っておこう。

「さて着替えたし戻るか。」

 タイミング良く来たシンにあの場を任せてしまったしな。きっと今頃はミクモに絡まれているに違いない。

 ここまで走ってきた道のりを戻って医務室へと向かう。すると医務室の近くでメイド達が慌てているのが見える。
 俺はそのうちの一人に声をかけた。

「何かあったのか?」

「シン様が倒れてしまったのです!!」

「なんだって!?」

 急いで医務室の中に入ると、頭に大きなたんこぶをこさえたシンがベッドに横たわっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

処理中です...