357 / 1,052
第三章
シア怒る!?
しおりを挟むザフッ、ザフッ……と一歩ずつ何かがシアへと近づいてくる。
霧が深いためシアの目でも姿を確認することもままならない。足音のする方向を注視していると……。
「あっ!?」
間近まで来てようやくその姿を見ることができた。
「メェ~。」
「ヤギさん!!」
特徴的な鳴き声と共に、純白の毛を身に纏った山羊がシアの前に現れた。
スリスリと頭をこちらに擦り付けてくる。
「あはは!!凄いふさふさ~。」
「メェ~♪」
シアが顔の横を撫でてあげると気持ち良さそうに鳴いた。
山羊が頭を擦り付けてきたり、手や顔を舐めてくる行為は山羊の間での挨拶のようなものらしい。
「あっそうだ!!これ食べる?」
そう言ってシアは持っていた三日月草を山羊の顔の前に差し出した。
すると山羊は、スンスンと三日月草の匂いを確かめてから少しずつ食べ始めた。
「おいしい?」
「メェ!!」
少し言語を理解できるのだろうか。シアの問いかけに山羊は威勢よく返事をした。
「そうなんだ~、でもシアはお兄さんが作る料理の方がおいしいと思うの。」
シアはモシャモシャと食べ続ける山羊を眺めながらそう言った。
一方のその山羊は、三日月草を食べ終えるともっとくれと言わんが如く、シアの服の裾に噛みつき、引っ張り始めた。
「あっ!!ダメッ!!これはお兄さんにもらった大切なお洋服だから離して!!」
抵抗してシアがグイッと服を引っ張ると……。
ビリビリビリィィ~!!
無情にも、以前ヒイラギに貰った大切な服が音をたてて破けてしまった。
「あっ…………。」
呆然と破れた服を見つめるシアの中で、何かがプツンと音をたてて切れた。
その瞬間シアからとてつもない殺気が溢れだす。
「メッ!?」
驚いた山羊はすぐさま霧に紛れて逃走を始めた。普通であれば、こんなに濃い霧の中で逃げた白い山羊を見つける事など不可能……だが 。
「ねぇ、どこ行くの?」
そんなことお構いなしに、シアは逃げた山羊の正面に回っていた。
「あのお洋服はね、シアとお兄さんの思い出のお洋服なんだよ?追い出されたシアに……優しくしてくれた、ヒイラギお兄さんが初めてシアに買ってくれたの。大好きな人からの初めての贈り物だったの……………。」
シアが言葉を発する度に、どす黒い殺気の奔流が山羊へ注がれる。
「メ、メェェ!!」
その強烈な殺気に当てられて、山羊は生まれたての子鹿のように、ガクガクと足が震えその場から動くことができなくなっていた。
「シアの大切な物を壊したんだから……シアも壊すね。」
シアはゆっくりと動けなくなっている山羊に近付き、そして右手を振り上げた。
「お前なんか大嫌いっ!!」
シアの全力のビンタが山羊に向けて放たれた。
それが、ただのか弱い女の子のビンタならばものともしなかっただろう。
しかし、相手はステータスお化けのシアだ。喰らってただで済むはずがなく……。
バシィィィン!!と辺りに大地を揺らす轟音が鳴り響き、山羊は顔から地面へと叩きつけられた。
叩きつけられた地面は山羊を中心にクレーターが出来上がり、その中心にいる山羊はピクリとも動くことはなかった。
34
お気に入りに追加
636
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる