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第三章

シア怒る!?

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 ザフッ、ザフッ……と一歩ずつ何かがシアへと近づいてくる。
 霧が深いためシアの目でも姿を確認することもままならない。足音のする方向を注視していると……。

「あっ!?」

 間近まで来てようやくその姿を見ることができた。

「メェ~。」

「ヤギさん!!」

 特徴的な鳴き声と共に、純白の毛を身に纏った山羊がシアの前に現れた。
 スリスリと頭をこちらに擦り付けてくる。

「あはは!!凄いふさふさ~。」

「メェ~♪」

 シアが顔の横を撫でてあげると気持ち良さそうに鳴いた。

 山羊が頭を擦り付けてきたり、手や顔を舐めてくる行為は山羊の間での挨拶のようなものらしい。

「あっそうだ!!これ食べる?」

 そう言ってシアは持っていた三日月草を山羊の顔の前に差し出した。
 すると山羊は、スンスンと三日月草の匂いを確かめてから少しずつ食べ始めた。

「おいしい?」

「メェ!!」

 少し言語を理解できるのだろうか。シアの問いかけに山羊は威勢よく返事をした。

「そうなんだ~、でもシアはお兄さんが作る料理の方がおいしいと思うの。」

 シアはモシャモシャと食べ続ける山羊を眺めながらそう言った。
 一方のその山羊は、三日月草を食べ終えるともっとくれと言わんが如く、シアの服の裾に噛みつき、引っ張り始めた。

「あっ!!ダメッ!!これはお兄さんにもらった大切なお洋服だから離して!!」

 抵抗してシアがグイッと服を引っ張ると……。

 ビリビリビリィィ~!! 

 無情にも、以前ヒイラギに貰った大切な服が音をたてて破けてしまった。

「あっ…………。」

 呆然と破れた服を見つめるシアの中で、何かがプツンと音をたてて切れた。
 その瞬間シアからとてつもない殺気が溢れだす。

「メッ!?」

 驚いた山羊はすぐさま霧に紛れて逃走を始めた。普通であれば、こんなに濃い霧の中で逃げた白い山羊を見つける事など不可能……だが 。

「ねぇ、どこ行くの?」

 そんなことお構いなしに、シアは逃げた山羊の正面に回っていた。

「あのお洋服はね、シアとお兄さんの思い出のお洋服なんだよ?追い出されたシアに……優しくしてくれた、ヒイラギお兄さんが初めてシアに買ってくれたの。大好きな人からの初めての贈り物だったの……………。」

 シアが言葉を発する度に、どす黒い殺気の奔流が山羊へ注がれる。

「メ、メェェ!!」

 その強烈な殺気に当てられて、山羊は生まれたての子鹿のように、ガクガクと足が震えその場から動くことができなくなっていた。

「シアの大切な物を壊したんだから……シアも壊すね。」

 シアはゆっくりと動けなくなっている山羊に近付き、そして右手を振り上げた。

「お前なんか大嫌いっ!!」

 シアの全力のビンタが山羊に向けて放たれた。

 それが、ただのか弱い女の子のビンタならばものともしなかっただろう。
 しかし、相手はステータスお化けのシアだ。喰らってただで済むはずがなく……。

 バシィィィン!!と辺りに大地を揺らす轟音が鳴り響き、山羊は顔から地面へと叩きつけられた。
 叩きつけられた地面は山羊を中心にクレーターが出来上がり、その中心にいる山羊はピクリとも動くことはなかった。
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