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第三章

あわただしい一日の始まり

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 俺のコックコートに顔を埋めているイリスは、夢中になっているのかこちらに気がつく様子はない。

 そんなイリスの姿をフレイも目撃してしまう。

「ね、ねぇヒイラギさん?アレって……。」

「あぁ、あれは俺のコックコートだ。」

 ほら、フレイもイリスの姿にドン引……あれ?何で指を咥えて羨ましそうにみている?

 不味い……非常に不味い。今この空間には正常な感覚を持つ人間が俺しかいない。

 だが、ここで何もアクションを起こさなければ先に進むことはできないしな……。
 少々気まずくなってしまうかもしれないが…仕方ない。

 ため息を吐きながら、ロッカールームの扉を開けるとイリスは体をビクッ!!と震わせ、とんでもない速さでコックコートをロッカーの中にしまった。

「あ………ヒイラギさんおはようございます♪」

 何事もなかったかのように彼女は挨拶をしてきた。

「イリス‥本当にそれでいいのか?」

「……そうですね、私ともあろうものがこんなコソコソして……。」

 イリスは少しうつむきながらこちらに近づいてきた。

「やっぱり女神の私は堂々としてなきゃダメですよねっ♪だからもう嗅がせてください!!」

 開き直って俺の胸に飛び込んできたイリス。

(違う!!そうじゃない!!)

 そんなツッコミを入れる間もなく、フレイがイリスに負けじとくっついてくる。

「ちょっとズルいよ~!!」

「フレイさん横入りはいけませんよ!!今は私の時間なんですっ!!すぅ~……はぁ~っ♪」

「ちょっ……二人とも落ち着け!!イリスはどさくさに紛れて服の中に顔を突っ込もうとするんじゃない!!」

 体に抱きつき、しきりに匂いを嗅ごうとしてくる二人をなんとか引き剥がし、事は一時終息した。

「まったく……俺の匂いなんか嗅いでもいい匂いな訳ないだろ?」

 第一に俺は男だ。汗だってかくし……香水とかも使わないからフローラルな香りだってしない。

「そんなことないです!!ヒイラギさんは凄く……すっ…ごく!!いい匂いなんですよ?」

「そうだよ!!凄い美味しそうな匂いがするんだ~♪」

「美味しそうな匂い……ね。」

 日々料理を作ってるからその匂いが染み付いたりしてるのか?

 う~ん……手にオリーブオイルの香りが染み付いている料理人の人はいるが、そんな人はもう何十年も毎日オリーブオイルを使っている人だしな。

「まぁいい、二人ともちょっとそこで座って頭を冷やしててくれ。その間に朝ごはんを作ってくるから。」

 ソファーにフレイとイリスを座らせ、しばらく大人しくしていてもらう。

 はぁ……一日の始まりがこんなだと、今日はなんか変な一日になりそうだな。

 コックコートを身に纏い前掛けを締めて、ため息を吐きながら厨房へと向かうのだった。
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