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第三章

風呂酒

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 もしものことがあったら、この国にかくまってもらう約束を取り付けると、シンは笑みを浮かべながら言った。

「むしろ我はこの国にヒイラギたちにはずっといてほしいぐらいなのだ。」

「美味しいものが食べられるからか?」

「フフフ、それもある。」

 お互いに冗談を交えながら会話をしていると、おもむろにシンが風呂場の壁を爪でトントンと叩き始めた。

「何をしてるんだ?」

「いやこの辺に確か…おっ!!あったぞ。」

 ある場所をトントンと叩くとパカッと壁の一部分が開いた。

 そんなからくりまで作ってあるのかこの場所は……。

「あとはこれを引っ張ればばよいな。」

 シンが壁の中にぶら下がっていたひもを何度か引っ張った。

「それで?なにかおこるのか?」

「うむ、いまこの紐を引っ張ったことで、上に待機しているレイラに鈴の音が伝わったはずだ。」

「つまりどういうことなんだ?」

「今にわかる。」

 その言葉通り脱衣場に誰かが入ってきた気配を感じた。すると、風呂場と脱衣場を仕切る扉がゆっくりと開けられた。

「失礼致します。冷えた芋酒をお持ちいたしました。」

「うむ、すまぬなレイラ。」

 シンはレイラから芋酒と猪口を受け取り再び湯船に戻ってきた。

「ただこんな話をしながら風呂に入るのも面白くあるまい?」

「なるほどな……まぁ一理ある。」

 そしてシンはトクトク…と猪口に芋酒を注ぎこちらに手渡してきた。受け取った猪口から芋酒がとても冷やされているのが手を通して伝わる。

 ちなみにだが風呂での酒はアルコールに弱い人はやめた方がいい。風呂に入っている最中は汗として体の水分がぬけ、冷たい酒がとても美味しく感じるが…その反面、体が温められているため血流の流れが早く、体にアルコールが回りやすいのだ。

「はぁ、やっぱり風呂に入りながらの酒は美味しいな。」

「うむ、まったくだ。」

 普段よりも美味しく感じてしまうが、自粛しながら飲まないとな。流石の俺でもこれは酔っぱらってしまうかもしれない。

 そして二人で風呂に入りながら酒を嗜んでいると、不意にシンが口を開く。

「ヒイラギよ、ひとつ聞きたい。」

「ん?なんだ?」

 自分の猪口に注がれた芋酒を、グイッと一気に飲み干した彼は改まったように言った。

「先程二人の戦いを見せてもらったが……実際のところヒイラギはこれから襲い来る死の女神の幹部とやらに勝てると思うか?」

 やはりシンも心の奥底には少し不安があるらしいな。だが、それは俺も同じだ。

「さぁな……だが、勝たなきゃいけない。俺にも守るべきものがあるように…シンにもリリンにも守らなきゃいけないものがあるはずだろ?」

「…そうだな。我は我にできることを全力で成し遂げようぞ。」

「あぁ、頼んだぞ。」

 そして俺も猪口に余っていた芋酒をグイッと一気に飲み干した。

 この戦いは絶対に負けるわけにはいかない。この国のためにも…皆のためにもな。
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