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第三章

ヒイラギの背中を追って

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ドーナ&ランside

「ヒイラギさんの方も始まったようですし……こちらも始めましょうか。」

 そう二人へと向けてイリスは言った。

「い、いよいよかい……。」

「ドーナ……油断したら死ぬわよ。」

「わかってる。」

 身構える二人……。心と身体の準備が整ったことを確認して、イリスはカオスドラゴンに命令を下した。

「まずは……3割ほどの力で戦ってください。」

 そう言葉をかけると同時に、カオスドラゴンを縛り付けていた鎖が解かれた。

「ゴアアアァァァァァ!!」

 鎖が解かれると同時に放たれた、大地を揺らすような咆哮……。
 死を連想させるそれを間近で聴いてしまった二人の体が硬直する。

「~~~ッ!!」

「何よ……コレッ!!」

 それを狙っていたかのように、カオスドラゴンはその巨体からは考えられないほどの速度で二人と距離を詰め、硬直していたドーナを前足で吹き飛ばす。

「ドーナっ!!」

 ドーナの心配をしていたランへと、カオスドラゴンはブレスの構えをとった。

「くぅっ!!」

 自らもドラゴンであるランは、ブレスの危険性をいち早く察知し、その場から飛び退く。
 直後、先程まで彼女がいた場所はカオスドラゴンの吐いた炎のブレスによって火の海となっていた……。

(これで3割の力なの!?カオスドラゴン……噂通りの化け物だわ!!)

 心の中でそう叫んでいたランへと、ブレスの追撃をしようとしていたカオスドラゴンだが……その顔面に拳がめり込んだ。

「アタイを忘れてもらっちゃ困るねぇ!!」

 しかし、カオスドラゴンのタフさは異常で…そのドーナの全力の拳を受けても眉一つ動かさない。
 そればかりか、お返しにドーナへブレスの構えをとったのだ。

「その口……閉じてなさいよ!!」

 ブレスを吐く直前に、ランがカオスドラゴンの顎を蹴り上げる。

「ドーナ、行くわよ!!」

「あぁっ!!」

 カオスドラゴンが見せた一瞬の隙に、二人は鱗の柔らかい腹部へと全力の一撃を叩き込んだ。
 それによって、ぐらり……とカオスドラゴンの体が少し仰け反る。

 しかし、すぐにカオスドラゴンは二人を睨みつけると、懐に潜り込んできた二人へ向かって雷のブレスを吐いたのだ。

「っ!!」

 それは幸い二人へと直撃することはなかったものの、カオスドラゴンのブレスの恐ろしさを二人へと確実に刻みこんだ。

 そこでイリスはカオスドラゴンを止めた。

「はい、一旦やめましょうね。」

 その言葉でピタリと動きを止めたカオスドラゴンの前で、ドーナとランの二人は座り込む。

「い、今の……喰らったら死んでた。」

「えぇ、間違いないわ。」

 大量に冷や汗をかき、荒い呼吸をしている二人にイリスが問いかける。

「どうですか?カオスドラゴンと実際に戦ってみて……何か感じましたか?」

「今ので3割の力……だったのよね?」

「はい、その通りです。」

「……全力のコイツに勝てる未来が見えないよ。いったいヒイラギはどうやってコイツに勝ったんだい?」

「ヒイラギさんは先程のブレスを、カオスドラゴンの口を抑えることで逆流させて倒していましたね。」

 そう語ったイリスは、追加であることを二人に教えた。

「ちなみに……ヒイラギさんがカオスドラゴンを倒した時のステータスは、今のお二人よりも遥かに低かったんですよ?」

「「え゛っ!?」」

 イリスから語られた衝撃の事実に、二人はあんぐりと口を開けて固まった。

「……す、ステータスは関係ない……ってことなのかしら。」

「ステータスに勝る……ってやつなのかねぇ。」

 頭を悩ませている二人。そんな二人の前からイリスはカオスドラゴンを一度消し去った。

「でしたらそのを一度体験してみては如何でしょうか?ヒイラギさんから武術を教わったお二人なら……きっと学べることがあるはずです。」

 そしてイリスが手を叩くと、二人の前に魔法陣が現れ、そこから一人の人物が姿を現した。

「「ひ、ヒイラギ!?」」

 二人の前に姿を現したのは、なんとヒイラギだった。
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