312 / 1,052
第三章
ジルの涙
しおりを挟む火山地帯から王都まで歩いて帰ってくると、少し陽が傾き始めていた。
「少し陽が傾いちゃったな。」
「そうね~、でもワタシは楽しかったわよ。ヒイラギと一緒にいろんなところを見て回れたしね~。」
急いで向かった時とは違い、帰りはゆっくり周りの景色を楽しみながら帰ってこれた。意外とデートっぽい雰囲気だったし、ランも楽しんでくれていたようだ。
「あの店にこいつを持っていって解体してもらうか。」
「あのジルって獣人きっと見たら驚くわよ~。」
サラマンダーを解体してもらうため、市場にある魔物肉専門店へと向かった。
市場は既に朝のような人通りはなく、いくつかの店はもう閉まっているため閑散としていた。
「朝あんなにたくさん人がいたのに、この時間になるともうこんなに寂しくなるのね~。」
「結局朝に大量に物が売れて在庫が無くなるからな。」
そのため夕暮れ辺りにはもう閉場する市場も多いのだ。人通りの少ない肉売り場の通りを歩き、目的の魔物肉専門店にたどり着いた。
周囲の店は閉まっているのにも関わらず、ここはまだ営業しているようだった。
「よかった、まだやってるみたいだな。」
扉を開き中へと入ると、ジルが俺たちを待っていた。
「御待ちしておりました。こ無事でなによりです。」
「もしかして、ずっと待っててくれたのか?」
「ホホ…ヒイラギ様であれば必ず戻ってくると信じておりましたので。」
どうやらジルは俺達が帰ってくるのを信じて、ずっと待っていてくれたようだ。
「サラマンダーとは出会えましたかな?」
「あぁ、しっかり討伐隊の人達の仇は討ってきたよ。」
「そう…でございますか、これで彼らも少しは報われることでしょう。」
ジルは目の縁に少し涙を浮かべながら言った。もしかすると討伐隊の隊員達の中には、ジルの知り合いがいたのかもしれない。
「私も歳ですな。涙腺が緩みきっておりました。」
ジルは胸ポケットから白いハンカチのような布を取り出して目に溜まった涙を拭った。そして次の瞬間にはキリッと表情を切り替えた。
「さて…仕事の話に戻しましょう。サラマンダーの死体は今もまだ火山にあるのですかな?」
「いや、きっちりここに入ってる。」
マジックバッグをポンポンと手で叩いた。
「魔道具ですな?サラマンダー程の大きさの魔物も入るとは、また珍しい物をお持ちですな。」
「あぁこいつには本当に助けられてるよ。さっそくサラマンダーの解体をお願いしたいんだが。」
「かしこまりました。それではこちらへどうぞ。」
彼に店の奥へと案内された。
41
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。


悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる