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第三章
肉売り場にて
しおりを挟む鮮魚売り場を抜け、俺達は最後残った肉売り場に足を運んだ。どうやら、ここでは単なる精肉だけでなく生きている牛や豚、鶏なども買えるようだ。
道行く人がたまに牛などを連れているとこからそれが窺えた。
たまたま通りすがった獣人が大きな牛を連れていたのを見て、ランがある疑問をこぼす。
「あの大きな牛…どうするのかしらね?」
「ん~、アレを全部自分で食べるとは考えにくいからな、種牛かなんかにするんじゃないのか?」
よっぽど大食感で、丸の状態の牛を捌き慣れているのであれば食用に買うかもしれないが、見たところ連れている獣人は草食系の顔つきである。
そういう状況から察するに単なる種牛だろう。
「種牛ってなんなの?」
聞きなれない言葉だったらしく、ランが首を傾げた。
「簡単に言ってしまえば、より良い子孫を残すために雌牛と交配する雄牛の事だ。」
この説明は我ながらだいぶオブラートに包めたと思う…多分。
しかし、意味を知ったランは顔を真っ赤にしながら、ぽつぽつと言葉をこぼした。
「こ、交配って……ここ、交尾のこと…よね?」
ランが顔を真っ赤にしながらそう確認してきた。そんなに顔を真っ赤にするぐらいなら、わざわざ口にしなくてもいいと思うんだが…。
「まぁそういうことだ。」
直後、プッシューッ!!とランの頭から湯気が立ち上った。
「ら、ラン…恥ずかしいなら言わなくても別にいいんだぞ?」
「あっ…ご、ごめんなさい。そ、そうよね…ワタシったら何言ってるのかしら…。」
少し歩いてやっと落ち着きを取り戻したランは、俺の服の袖を引っ張って、あるお願いをしてきた。
「さ、さっきのドーナには内緒にして?お願いっ!」
「わかった、わかった。」
俺は別に誰かにこれを言うつもりはないんだが……。
チラッと後ろを振り向いて、フードを被った人物に視線を向けると…その人物は少し慌てた様子でフードを深く被り直した。
その際に赤く綺麗な髪を確認できてしまったのだ。まぁ間違いなくドーナだろうな。市場に向かってる途中からずっとついてきていたんだ。
さっきの一部始終はおそらく見られてしまっただろうが……この現実はランには言わないでおこう。
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