294 / 1,052
第三章
イリス百面相
しおりを挟むレイラに広場まで案内してもらった後、早速ハウスキットを使う。
「何度見ても不思議な建物でございますね。あんなに小さかったものがこんなに大きくなるなんて。」
「あぁ、俺も仕組みはよくわかってないが……これには何度も助けられてる。そうだ、シンも一緒に夕飯を食べないか聞いてきてくれないか?」
せっかくだ、シンも誘って一緒に食べよう。大勢で食べた方が楽しいしな。
「かしこまりました。」
そしてレイラはこちらに一礼すると王宮の方へと戻っていった。
ハウスキットの中へと入り、コックコートに着替えて厨房へ向かった。
そこで俺はある違和感に気付く。
「あれ?厨房に電気がついてる…イリスか?」
ドーナ達は部屋で休んでいるはずだから、考えられるとすればイリスしかいない。
そろっと厨房を覗いてみると……。
「これは、しょっぱい……。これは甘い。これは……~~ッ!!酸っぱ!!」
なにやらイリスが自分の指を咥えながらボソボソと呟いていた。
どうやら調味料を一つ一つ味見しているようだ。酢を味見して、あまりの酸味に口をすぼめて手をブンブンしている姿はどこか愛らしい。
「うぅこれは美味しくないです。次はこれを……。」
次にイリスが手に持ったのは豆板醤だ。あっ…と思ったときには既に遅かった。
「か、かりゃい~!!」
豆板醤を味見したイリスは、涙目になりながら辛さに悶絶していた。
うん……まぁ豆板醤をそのまま味見したらそうなる。このままもう少し見ていても面白いが、流石に可哀想になったので……。
「イリス大丈夫か?これ飲めば少しは落ち着くぞ?」
俺はイリスに牛乳を注いで差し出した。
唐辛子の辛さはただの水では流せない。辛味成分であるカプサイシンは脂溶性で脂に溶ける性質がある。
つまりは脂肪分を含んだ食べ物…もしくは飲み物で辛味を多少緩和することができるのだ。
ちなみに補足だが、山葵やマスタードの辛味成分は水溶性で、ただの水やお茶で辛味を消すことが可能だ。
「あっ、ありがとうこざいまひゅ。んくっんくっ……ぷはっ!!うぅ、まだ舌がヒリヒリします。」
「調味料を味見するのは構わないが、こうなることもあるから気を付けるんだぞ?」
「はいぃ~、次はちゃんとヒイラギさんに聞いてから味見しますっ!!」
そう言う問題……なのか?まぁ、まだ口にしたのが豆板醤で良かった。
あれはまだきちんとした味があるぶんマシだからな。
もしホールのブラックペッパーなんか食べたら最悪だぞ。辛い上に刺激的な香り……それに何よりそのままでは美味しくない。
「さて、イリスの面白い顔も見れたから、そろそろ始めようかな。」
「む~…ヒイラギさんって時々意地悪なときありますよねっ!!」
頬を膨らませて、不貞腐れるイリスをなだめながら俺は仕込みの準備を始めた。
52
お気に入りに追加
636
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる