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第三章

イリス百面相

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 レイラに広場まで案内してもらった後、早速ハウスキットを使う。

「何度見ても不思議な建物でございますね。あんなに小さかったものがこんなに大きくなるなんて。」

「あぁ、俺も仕組みはよくわかってないが……これには何度も助けられてる。そうだ、シンも一緒に夕飯を食べないか聞いてきてくれないか?」

 せっかくだ、シンも誘って一緒に食べよう。大勢で食べた方が楽しいしな。

「かしこまりました。」

 そしてレイラはこちらに一礼すると王宮の方へと戻っていった。

 ハウスキットの中へと入り、コックコートに着替えて厨房へ向かった。
 そこで俺はある違和感に気付く。

「あれ?厨房に電気がついてる…イリスか?」

 ドーナ達は部屋で休んでいるはずだから、考えられるとすればイリスしかいない。

 そろっと厨房を覗いてみると……。

「これは、しょっぱい……。これは甘い。これは……~~ッ!!酸っぱ!!」

 なにやらイリスが自分の指を咥えながらボソボソと呟いていた。

 どうやら調味料を一つ一つ味見しているようだ。酢を味見して、あまりの酸味に口をすぼめて手をブンブンしている姿はどこか愛らしい。

「うぅこれは美味しくないです。次はこれを……。」

 次にイリスが手に持ったのは豆板醤だ。あっ…と思ったときには既に遅かった。

「か、かりゃい~!!」

 豆板醤を味見したイリスは、涙目になりながら辛さに悶絶していた。

 うん……まぁ豆板醤をそのまま味見したらそうなる。このままもう少し見ていても面白いが、流石に可哀想になったので……。

「イリス大丈夫か?これ飲めば少しは落ち着くぞ?」

 俺はイリスに牛乳を注いで差し出した。

 唐辛子の辛さはただの水では流せない。辛味成分であるカプサイシンは脂溶性で脂に溶ける性質がある。
 つまりは脂肪分を含んだ食べ物…もしくは飲み物で辛味を多少緩和することができるのだ。

 ちなみに補足だが、山葵やマスタードの辛味成分は水溶性で、ただの水やお茶で辛味を消すことが可能だ。

「あっ、ありがとうこざいまひゅ。んくっんくっ……ぷはっ!!うぅ、まだ舌がヒリヒリします。」

「調味料を味見するのは構わないが、こうなることもあるから気を付けるんだぞ?」

「はいぃ~、次はちゃんとヒイラギさんに聞いてから味見しますっ!!」

 そう言う問題……なのか?まぁ、まだ口にしたのが豆板醤で良かった。
 あれはまだきちんとした味があるぶんマシだからな。

 もしホールのブラックペッパーなんか食べたら最悪だぞ。辛い上に刺激的な香り……それに何よりそのままでは美味しくない。

「さて、イリスの面白い顔も見れたから、そろそろ始めようかな。」

「む~…ヒイラギさんって時々意地悪なときありますよねっ!!」

 頬を膨らませて、不貞腐れるイリスをなだめながら俺は仕込みの準備を始めた。
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