241 / 1,052
第三章
リリンとの取引
しおりを挟むその部屋の前でリリンが出てくるのを待った。大きな賭けだが、これに勝てればこれからの情勢が大きく変わる。
話し声が聞こえなくなった部屋から、すっかり落ち込んだ様子のリリンが出てきた。
さっきは姿を見ることはできなかったが……リリンは金色の長い長髪をツインテールに結んでいる、ゴシックな服に身を包んだ幼い見た目の少女だった。
彼女は大きくため息を吐くと、気持ちを切り替えたのか顔を上げた。すると、俺とばっちり目が合ってしまう。
「ななっ、何であなたがここにいるの!?さっき確かに殺したはず……。」
「俺自身死んだと思ったよ。でも生きてる、これが事実だ。」
驚きを隠せないでいる彼女に俺は続けて言った。
「さっき少しだけ話を聞かせてもらった。妹のために死の女神に服従しているんだな?」
「それがなんだって言うのよ?今の私はあなたの敵、獣人族を滅ぼすことが私の使命よ!!」
今にも襲い掛かってきそうな彼女に、俺は冷静に意見を述べた。
「これはあくまでも俺の意見だが……他人の妹を人質に取る狡猾なヤツが素直に約束を守るとは思えない。多分、獣人族を滅ぼしたら妹は解放するとか言われてるんじゃないか?」
「っ、何でそれを。」
「もし俺が敵の立場だったらそうするからだ。さらに言ってしまえば、そんな約束なんて守らずお前が死ぬまで使い潰すだろう。」
残酷な現実だが、一度弱味を握られた者は一生絞られ続ける。それが世の中の常というものだ。
「じゃあどうすればいいってのよ!!」
やけになったリリンは叫んだ。悲痛な胸の内が伝わるような心の奥底からの叫びだ。
「そこでだ、もし俺が死の女神の強制盟約とやらを解除できるかもしれないと言ったらどうする?」
「藁にもすがりたい思いではあるけどね、私はあなたごときにあれが解けるとは思えないわ。」
「そうか、ならこうしよう。もし強制盟約ってやつを解除できなかったら……その場で俺を殺しても構わない。もう復活する手段は持ち合わせてないから、蘇る心配もないぞ。」
その言葉にリリンは驚愕し、言葉につまるが……少し悩んだ後に渋々頷いた。
「……わかったわ。そこまで言うあなたの覚悟に免じてやらせてあげる。ただし、変な気を起こされたら敵わないわ。私と盟約を結んでもらうわよ。」
「構わない。」
俺が頷いた瞬間にリリンとの間に繋がりができたのを感じた。これが盟約というやつなのだろう。
「盟約成立ね。もしあなたがフレイに危害を加えようとしたら盟約に殺されるから。肝に銘じておきなさい。」
「わかった。じゃあ早速やってみよう。」
そして俺はリリンとともに、彼女の妹がいる部屋へと足を踏み入れるのだった。
72
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる