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第三章

完全敗北

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 城門に背を預けあの獣人が来るのを待っていると、少し先の影がざわついた。ようやくお出ましのようだ。

 スッと構えを取り戦闘に備えた。

 直後影の中からシアを抱えた獣人が出てきた。幸いシアに怪我などは見受けられない。未だに眠りについていることを見るに、ずいぶん丁寧に運んでいたようだな。

「ど、どうして貴様がここにいる。」

 彼女は俺にそう問いかけてきた。率直な疑問だろうな、目的地に先回りされているのだから。

「お前がどこへ向かっているのかを確信した後に追い越して来た。俺が答える質問はこれだけだ。今すぐシアを返せ。」

「クッ、返せるわけ無いだろう……この子はッ!!」

 彼女が感情をあらわにした次の瞬間……辺りに声が響く。

「穏やかじゃないわねぇ。」

 辺りに反響しているため声の主はどこにいるのかはわからないが……。恐らくこの声の主が……吸血鬼リリン。

 理解すると同時に、ドスッ…と重い衝撃が鋭い痛みと共に胸を突き抜けた。同時に大量の血液が口から溢れ出してくる。

 とっさに俺は口を手で抑えたが、血液の濁流は止まらない。

 何が起こっているのかを理解する前に、背後から声が聞こえてくる。

「はじめまして、私がリリンよ。貴方の名前は……ってもう聞こえてないかしらね。」

 リリンの左手は俺の背中から突き刺さり、胸から飛び出していたのだ。

 自分の体から他人の手が生えているという、現実とは思えない光景……それが最後に見た光景だった。

 リリンは血に濡れた手を抜き取り、舌先で付着した血液を舐めとる。

「あら、意外に美味しいわ。ライラの次ぐらいにね。」

「り、リリン様……お体は…………。」

「えぇ、もう大丈夫よ。ちょうどよく忌々しい太陽が雲で隠れてくれたしね。……ってあら?その子はもしかして。」

 リリンはライラが抱き抱えていた少女を見た。

「はい、私のです」

「やっぱりね~、すごく顔が似てると思ったのよ。さっ太陽が顔を出す前に中へ入りましょ?」

 そして、リリンとライラは古城の中へと姿を消した。膝をつきながらも倒れないヒイラギを置いて。
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