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第三章

風呂上がりの一杯

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 用意されていた服に着替えたのはいいんだが、まさかこの服を異世界で着ることになるとは思ってもいなかったな。

「なかなか似合っておるではないかヒイラギよ。それは我が国で古くから伝わる服でなと言うのだ。着心地が軽くてよいだろう?」

「あぁ、軽くて動きやすい。いい服だよ、ありがとう。」

 今着ている服は日本でいう甚平だ。夏になればよく藍色の甚平を羽織って寝たものだが、まさかこっちの世界でもお目にかかれるとはな。
 甚平をこっちの世界でも発見できたことに少し感動を覚えながらシンと大浴場を後にした。

 すると大浴場を出てすぐにメイドのレイラが待機していた。

「お風呂お疲れさまでございます。こちらに冷たいお飲み物をご用意いたしましたので、どうぞお飲みください。」

「うむ、いつもすまぬなレイラよ。」

「ありがとう。」

 そして銀盆の上に乗せられていた飲み物を手に取る。グラスから手に飲み物の冷たさが伝わってくる。

 見た目は水のように透明な飲み物だ、匂いは……ん?さつまいもみたいな香りだな。飲み物を観察していると、隣でシンはぐいっとそれを飲み干していた。

「っかぁ~、風呂あがりに飲む冷えたはやはり良いな。火照った体に染み渡るようだ。」

 芋酒?まさか……。

 くいっと少し口に含み味を確かめた。

 ……間違いないこれは芋焼酎だ。しかも滅茶苦茶に美味しい……今まで日本で飲んだ芋焼酎を全て置き去りにしてダントツの美味しさだ。
 気付けばあっという間にグラスに入っていたそれを飲み干していた。

「芋酒はうまかったか?」

「あぁ、これ以上なく美味しかったよ。あれもこの国の飲み物なのか?」

「うむ、この国は肉の他に芋を主食にすることもあるのだがな。先代の国王がその芋と肉を両方楽しみたいと我が儘を述べてな、試行錯誤した上に開発されたのがこの芋酒だ。」

 我が儘って……まぁそれで美味しいものができたのならプラマイ0なのか?

 人類史でも国王等の偉い人の我が儘でできた料理は案外たくさんあるものだ。それと同じようなことだろう。

「にしてもヒイラギはなかなか酒には強いのだな。並の獣人でもこれ一杯で酔っぱらうのだが……。」

「これでも料理人だからな、酒にはめっぽう強いんだ。」

「それは楽しみだな、今夜の宴が。」

 宴……獣人族の……その模様を頭のなかで思い浮かべると、うん…大量の生肉と芋しか出てこない。それは不味い、人間の胃にはなかなかハードかもしれないな。

「今夜のその宴会の料理は俺が作ろう。せっかく美味しいものを広められるいい機会だ。」

「む…そうか。もてなす立場だが、逆にもてなされてしまいそうだな。」

 さてさて、何を作ろうかな……。
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