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第三章
王都帰還作戦
しおりを挟むベルグが無事だったということにほっとしたのもつかの間、シンは現在獣人族の王都が襲われている現実に自分の無力さと無謀さを嘆いた。
「我はどうすればいいのだッ!!ここから王都まではどんなに良い馬を使ってもかなり時間がかかる。その間にどれだけの命が犠牲になる!?」
ダンッとテーブルに拳を叩きつけ、シンは吠えた。
ベルグが俺と邂逅したときにすぐに王都に使いを出していたと仮定しても、シンがここに着いたのは明朝……。シンの言う通り、普通の方法ではかなり時間がかかる。
(どうやれば、シンを連れて王都に最速でたどり着ける?)
思考を巡らせていると、グレイスが自分の翼の手入れをしているのが目についた。もしやと思いグレイスに質問する。
「グレイス、地上を全力で走るのと、空を全力で飛ぶのだったらどっちが速い?」
「圧倒的に飛んだ方が速いっす!!自分飛ぶスピードには自信あるっすよ!!」
なら可能性が出てきたぞ。俺はグルルと唸りながら頭を抱えているシンに、ある提案をしに向かった。
「シンさん、1つだけ最速で王都にいく方法があります。」
「ッ!?そ、それはいったいどんな方法なのだ!?」
藁にもすがる思いでそうシンは食いついてきた。
「あそこにいるグレイスという仲間はワイバーンなんです。」
シンはグレイスをバッと見た。その視線にグレイスはビクッと驚いている。
「ま、まさか…。」
「そのまさかです。空を飛べる彼女に運んでもらいましょう。」
そして俺はグレイスに運んでもらう作戦の内容をシンに説明し始めた。
作戦はとてもシンプルで、みんなマジックバッグの中に入ってグレイスに運んでもらい、王都に到着次第戦闘を開始する。たったそれだけ…。
とてもシンプルだが、恐らくは一番速い。
作戦を説明し、シンにはそれで納得してもらった。本人曰く、王都に速く戻れるのならば方法など何でも良いとのこと。
そうと決まれば行動開始だ。皆に外に出てもらい、ハウスキットをしまう。そして一人ずつマジックバッグの中に入ってもらった。
「えへへぇ~、シアがいっちば~ん!!」
ぴょーんと口を開けたバッグの中に飛び込んでいくシア。精神的疲れが取れたのか今日は一段と元気だ。
「む!?ヒイラギよ、あの娘は…。」
「体毛が黒いことを理由に人間の国に追放されていた所を俺が保護しました。」
そうシンに言うとため息を吐きながら頭を抱えた。
「まだ、あの風習に従っている者達がいたのか…。ヒイラギよ、すまぬ我の目が届かなかったが故の…。」
「シンさん、それはあの子に直接言ってあげてください。」
「だが我の責任でヒイラギに迷惑がかかっているではないか?」
「一度だって迷惑なんて思ったことありませんよ。みんながいなかったら今の俺はここにいませんからね。」
迷惑なんてとんでもない。むしろ感謝してる。シアがいなかったらここに来てないだろうし、今の俺もいないだろうからな。
「さ、シンさん。お先にどうぞ。」
「では入らせてもらおう。」
シンが入ったのを確認して、グレイスに声をかけた。
「グレイス、頼むぞ?」
「任せてくださいっす!!」
グレイスに思いを託して、俺もバッグの中に入るのだった。
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