214 / 1,052
第三章
王都帰還作戦
しおりを挟むベルグが無事だったということにほっとしたのもつかの間、シンは現在獣人族の王都が襲われている現実に自分の無力さと無謀さを嘆いた。
「我はどうすればいいのだッ!!ここから王都まではどんなに良い馬を使ってもかなり時間がかかる。その間にどれだけの命が犠牲になる!?」
ダンッとテーブルに拳を叩きつけ、シンは吠えた。
ベルグが俺と邂逅したときにすぐに王都に使いを出していたと仮定しても、シンがここに着いたのは明朝……。シンの言う通り、普通の方法ではかなり時間がかかる。
(どうやれば、シンを連れて王都に最速でたどり着ける?)
思考を巡らせていると、グレイスが自分の翼の手入れをしているのが目についた。もしやと思いグレイスに質問する。
「グレイス、地上を全力で走るのと、空を全力で飛ぶのだったらどっちが速い?」
「圧倒的に飛んだ方が速いっす!!自分飛ぶスピードには自信あるっすよ!!」
なら可能性が出てきたぞ。俺はグルルと唸りながら頭を抱えているシンに、ある提案をしに向かった。
「シンさん、1つだけ最速で王都にいく方法があります。」
「ッ!?そ、それはいったいどんな方法なのだ!?」
藁にもすがる思いでそうシンは食いついてきた。
「あそこにいるグレイスという仲間はワイバーンなんです。」
シンはグレイスをバッと見た。その視線にグレイスはビクッと驚いている。
「ま、まさか…。」
「そのまさかです。空を飛べる彼女に運んでもらいましょう。」
そして俺はグレイスに運んでもらう作戦の内容をシンに説明し始めた。
作戦はとてもシンプルで、みんなマジックバッグの中に入ってグレイスに運んでもらい、王都に到着次第戦闘を開始する。たったそれだけ…。
とてもシンプルだが、恐らくは一番速い。
作戦を説明し、シンにはそれで納得してもらった。本人曰く、王都に速く戻れるのならば方法など何でも良いとのこと。
そうと決まれば行動開始だ。皆に外に出てもらい、ハウスキットをしまう。そして一人ずつマジックバッグの中に入ってもらった。
「えへへぇ~、シアがいっちば~ん!!」
ぴょーんと口を開けたバッグの中に飛び込んでいくシア。精神的疲れが取れたのか今日は一段と元気だ。
「む!?ヒイラギよ、あの娘は…。」
「体毛が黒いことを理由に人間の国に追放されていた所を俺が保護しました。」
そうシンに言うとため息を吐きながら頭を抱えた。
「まだ、あの風習に従っている者達がいたのか…。ヒイラギよ、すまぬ我の目が届かなかったが故の…。」
「シンさん、それはあの子に直接言ってあげてください。」
「だが我の責任でヒイラギに迷惑がかかっているではないか?」
「一度だって迷惑なんて思ったことありませんよ。みんながいなかったら今の俺はここにいませんからね。」
迷惑なんてとんでもない。むしろ感謝してる。シアがいなかったらここに来てないだろうし、今の俺もいないだろうからな。
「さ、シンさん。お先にどうぞ。」
「では入らせてもらおう。」
シンが入ったのを確認して、グレイスに声をかけた。
「グレイス、頼むぞ?」
「任せてくださいっす!!」
グレイスに思いを託して、俺もバッグの中に入るのだった。
79
お気に入りに追加
643
あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる