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第三章
ベルグの妙案
しおりを挟む獣人族の王様相手に立ち話も失礼なので、とりあえず中に招き入れ、ソファーに腰掛けてから話をすることにした。
紅茶を淹れてシンとベルグの二人に出した。今はこれぐらいのもてなししかできないが、なにもしないよりは印象がいいだろう。
「これは、人間の飲み物か?」
そうシンが聞いてきた。獣人族の国には紅茶は無いのだろうか?
「紅茶という飲み物です。人間の国では割と親しまれているんですよ。」
「ほぅ、まさか人間の飲み物を口にする時が来ようとはな……やはり王宮を飛び出してきて正解だった。」
ニヤッとシンが笑い紅茶を口に含んだ。淹れたてだから熱いはずだが、猫舌ではないらしい。
シンはゴクッと紅茶を飲み干して、鼻から大きく息を吐いた。
「うむ…うまい。人間はこんなにもいい飲み物を飲んでいるのか。」
「気に入ってくれたようで何よりです。さて、それじゃあそろそろ……。」
「うむ、本題に入るとしよう。」
シンはそう言うと真剣な面持ちになり、俺に質問を始めた。
「まず、何点か質問に答えてほしい。まず一つ、この国へ来た目的は?」
まぁそこからだろうな。だいたい予想していたが一番気になるのはそれだろう。
「一番の目的はこの国ならではの食材を見るため……ですね。」
そう俺が答えるとシンはベルグの方をチラッと見た。すると、ベルグは少し頷いた。
それを確認したシンは、次の質問を投げかけてきた。
「なるほどな、であれば我々を助けたのはどうしてだ?」
「目の前で助けを求めていたので、放っておけなかったんです。」
そう答えると再びシンはベルグを再び見て、頷いたのを確認すると、今度は腕を組み悩み始めた。
「うーむ……本当に嘘は言っていないようだ。疑ってすまなかったヒイラギよ。」
「いえ、疑われても仕方がない身なのは理解しているので。」
「だが、我が兵士たちを救った大きな借りがある恩人を疑ったとなれば我の顔も立たん。何か……良い恩返しの方法はないものか。」
「シン様いい考えがございます。」
腕を組み悩んでいるシンにベルグがそう進言する。
「申してみよ。」
「はっ、ヒイラギを人間の勇者として王都で祭り上げればよろしいかと。」
「いや、それはちょっと……。」
遠慮しようとする俺の言葉は、彼らには聞き入れてもらえなかった。
「うむ、それならば王都にヒイラギを招き入れても文句を言う輩はおるまい。それに王都に滞在してもらえれば受けた借りも返しやすくなろう!!その案採用だ。」
もうほぼ決定事項となりつつあるベルグの妙案に、思わずため息を吐くのだった。
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