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第ニ章

剛を制す

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「今回はお前の負けだ。」

 拳をバフォメットの眼前に突きつけそう言った。眼前での拳の寸止め……ピクリとでも奴が動きを見せれば攻撃できる。

 すると、バフォメットのやつは乾いた笑い声をあげた。

「クハハ、まだ届かぬか。」

「いや、お前の成長速度には驚かされたよ。あのフェイントを織り交ぜた連撃は慣れるのに時間がかかった。」

 突き付けた拳を開き、起き上がれるように手を貸した。こちらの手をガシッと握りバフォメットは立ち上がった。

「次はさらに強くならねばならんな。」

 そうバフォメットは次の戦いまでにさらに強くなることを誓っていた。流石に今回のようなスピードで強くなられると、俺も今のままじゃちょっと危ないかな。

 まさか散桜を使うわけにもいかないし……うん。

「勘弁してくれ、これ以上強くなられたらやりように困る。」

「クハハハハハ!!何を言うか、貴様に勝つまで我は鍛錬をやめぬぞ。」

 さぞかし楽しそうに笑うバフォメットには、流石の俺も思わず呆れてしまう。

 バフォメットのやつとそんなやり取りをしていると、こちらの戦いを眺めていたドーナたちが落ち込んだように言った。

「ワタシ達じゃまだまだね。」

「余興なんて言われてたし……ねぇ。」

 口々に言った二人に俺は声をかけた。

「そんなに落ち込むな二人とも。今回負けたって次に勝てばいい。今回バフォメットと戦って学べることは二人ともあったはずだ。」

 ハッキリ言ってバフォメットのやつは強い。生半可な実力じゃ勝つことはできない相手だ。いくらドーナたちが天才でも……な。

「敗北で落ち込むんじゃなくてどうして負けたのか……どうやれば勝てたのかを考えるんだ。落ち込んていてもなにも見えてはこない。」

 そう二人に説くと、二人はお互いに顔を見合わせ頷いた。そして次にこちらを向いた表情からは落ち込んだ表情はすっかり消えていた。

 そんな二人をさらに煽るようにバフォメットが笑いながら言う。

「クハハハ!!小娘どもが我に打ち勝つのはいつになることか。」

「また小娘って言った!!覚えてなさいよ、このっ!!」

「で、とな!?」

 見たまんまのあだ名をつけられ、バフォメットもさすがに動揺を見せる。

「いい名前じゃないか、さんざんアタイ達に小娘って言った礼だと思って受け取りな!!」

「ぐぐぐ、な、なんと侮辱的な名前を……。」

「なによ、文句があるんならもう一回やる?ワタシ達も小娘って名前を訂正してもらいたいもの。」

 バチバチと再び火花を散らし始めたドーナたちとバフォメットだが、その中に割って入った人物が一人……。

「おっきな羊さん!!今度はシアと遊ぼ!!」

 満面の笑みで手を揚げながら、目の前に立ちそう言ったのは、現状ここに居る誰よりも強いステータスを持っているシアだ。

「む、むぅ……獣人族の娘か。」

 予想外の最高戦力の登場に流石のバフォメットの顔色も悪くなった。
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