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第ニ章
慈愛あふれる女神イリス
しおりを挟むまるで足に何かが憑りついているような重い感覚に襲われながら、ハウスキットの中に入るとそこではイリスが俺のことを待っていた。
「お帰りなさい。」
「あぁ……ただいま。」
「とてもつらい出来事でしたね。」
「あぁ、怒りに任せてまた人を殺してしまった。」
自分の両手を眺めると、血に濡れてしまっているように見えてしまう。そんな両手をイリスがとった。
「大丈夫です。大丈夫……後ろめたさを感じる必要はありません。もしヒイラギさんが手を下さなかったら、どうなっていたのかを考えてください。きっと悲惨な運命をたどっていたに違いありません。」
俺の両手をキュッと握りながらイリスは言う。
「それに、あのセドルという男は今回のような手口で何度も自分好みの女性を攫い、辱めては命を奪っていたようです。気休めになるかはわかりませんが、あなたは罪人を……悪人をその手で裁いた。その行為は罪ではありません。」
「…………。」
「ですから、あまり考えすぎないでください。ヒイラギさん、あなたはドーナさんたちを守っただけ。それだけなんです。」
イリスにそう説かれるにつれて、だんだん手についていたように見えた血が消えていく。
ふとイリスの顔を見上げると、彼女は慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
「あなたの行動で救われた人もいるんですよ。」
イリスは眠るドーナたちのほうに視線を向ける。その視線を追ってドーナたちに視線を送ると、そこには安らかに寝息を立てているみんなの姿があった。
「これがまぎれもなく、あなたが守った光景です。」
「……そうか、そうだな。」
自責の念はまだ拭えないとはいえ、俺が行動したことによって守られた景色がここにある。その事実は確実に認識できた。
そのおかげで少し気持ちは楽になってきた。
「ありがとう、少し楽になったよ。」
「ふふ、良かったです。」
にこりと笑ったイリス。この慈愛に満ちている笑顔はやはり女神らしいものだ。
「やっぱりイリスは女神だな。改めて認識できた。」
「そ、それどういうことですか!?」
「いや、いつものイリスを見てると、その…なんというか……。」
「め、女神っぽさがないと?」
「ま、まぁ率直に言えば……うん。」
「そ、そんなに威厳がなかったでしょうか……普段の私は。」
逆に今度はイリスががっくりと肩を落としてしまった。俺が立ち直るのにかかった以上に、イリスが立ち直るのに時間がかかってしまった。
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