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第ニ章
稽古中のハプニング
しおりを挟む咄嗟に、否定しようと思った。
だって私は、そんな大それたこと思っていい身分じゃない。
新撰組に、この名が残っていないんだから。
いつかは未来に帰るのだ。
ううん、未来に、帰らなくてはいけないんだ。
「ち、が……」
どうして。
言葉が、うまく綴れない。
「……ち、がうよ……そんなわけ、ないじゃない……」
一言一言。
口から押し出すたびに、胸が軋むように痛む。
「………璃桜…」
「……あ、ほんとだよ? 歳三なんて、……どうも思ってないし?」
例えそれが、私にとって、嘘と欺瞞でも構わない。
平ちゃんを、周りを、……自分を。
欺いて、言い聞かせて、真実だと信じ込ませることが出来るのなら。
言葉を、押し出そう。
「璃桜。前向け」
自然と俯いてしまっていた私の顎を掬い上げるように持ち上げて。
「……そんな、…辛そうな顔してんじゃねーよ」
そう言って、私の頬にそっと手を触れる。
潤んだ視界でその顔を見れば、へにゃりと眉を困ったようにさげて、優しく笑う貴方がいた。
「認めて、やれよ」
「……え」
「自分の事を、だよ」
その言葉に、心が僅かに音をたてる。
私は、この時代では好きな人なんか作っちゃいけないのに。
大切な人を、失うのはもうあの時だけで十分なのだから。
それなのに。
「璃桜、璃桜はいつだって俺の好きなやつなんだよ。変わらねぇよ、それは」
――――――だから。
そう呟いて、優しく口角を上げ、両手で頬を包み込んだ。
「…………璃桜は、璃桜だ」
「へい、ちゃ……」
「土方さんの雑用してるのも、稽古をしているのも、食事の支度をしてるのも……何処にいたって、何をしていたって、璃桜は璃桜なんだ」
どうして、貴方はそんなに柔く優しく、けれどひどく残酷な方向に私の背を押すのだろう。
まるで私が。
この時代での私自身の恋を、認めることができない理由を知っているかのように。
「総司のことだって、同じだろ?」
ほら、また。
切り口をえぐるように、核心をついてくる。
「……そうちゃんとも、何もないよ」
「嘘つけよ。ちゃんと話せてないだろ?」
目を覗きこまれて、図星過ぎて何も言えなくなった。
「……璃桜は、総司が怖いの?」
ぐ、と喉が鳴る。
「そんな、こと」
ない……って、言えない自分に直面した。
そう、私はこれを恐れていたの。
そうちゃんが、“沖田総司”だって、あの冷徹な剣士……あんな恐ろしいことをしても普通にいられる人だって、認めるのが怖かった。
ぶわりと涙をにじませた瞳で見上げれば、困ったように頬に手を滑らせて涙を拭った。
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