転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
144 / 1,052
第ニ章

ミルタ商会とケーキ

しおりを挟む

ミルタside

 私はヒイラギさんたちを見送り、店舗の中へと戻った。

「お疲れ様です会長。」

 いつも出迎えをしてくれる彼女に、私は一言指示を出す。

「至急従業員を集めてください。」 

「はい、かしこまりました。」

 そう指示をだして私は先程ヒイラギさん達と会談をしていた部屋へと戻った。

「見たことのない装飾が施されたお菓子……とても精巧にできていますね。」

 ヒイラギさんから頂いたケーキというお菓子を見つめた。なんとも美しい造形で、白地に赤いベリリの実がとても合っている。

「会長、従業員の招集完了しました。」

「そうですか、それではさっそくこちらを見てもらいましょう。」

 従業員達にケーキを見てもらう。この国のいろいろな場所から働きに来ている彼女たちなら、見たことがある可能性がある。

 と思ったのですが、反応を見る限り誰も見たことのないもののようです。

「これは、なんとも美しいですね。」

「上に乗ってるのはベリリの実ね。」

「これは先程私のお客様に頂いたと言うお菓子です。私自身様々なお菓子を見てきましたが、こんなものは見たことがありません。しかし、この美しい造形は見るものの目を引き付けると思いませんか?」

「確かにこの造形美は富裕層の興味をかなり引くこともできるかと。ですが問題は……。」

「えぇ味ですな。確かヒイラギさんは紅茶と合わせて…とおっしゃっていましたな。」

「紅茶ですね、先程の物と同じ物でよろしいですか?」

「えぇ、人数分お願いします。」

 従業員の一人が紅茶を淹れに向かった。その間私はナイフを取り出し、人数分にこのケーキを切り分けることにした。

 ナイフをケーキに入れるとまるで沈むようにスッと飲み込まれていった。

(なんという柔らかさ……。)

 人数分に切り分け、断面を見てみると……。

「ふむ、白い生地の下には黄色いパンのようなものが入っていると。その間にはまたベリリの実がぎっしりと入っている。」

 切り分けても尚美しい……白、黄色、赤の三色でとても明るく見える。

「会長、紅茶をお持ちしました。」

「ありがとうございます、それでは皆さんも食べてみて下さい。」

 一人一人にケーキを配っていき、自分の分のケーキへと視線を落とした。

「それでは頂きましょう。」

 フォークでケーキを少し切り分け、口へと運び入れる。

 その次の刹那、体中をとてつもない衝撃が駆け巡った。

「……これは比べ物になりませんな。」

 白い生地はしっとり甘く、中の黄色い部分は普通のパンよりも遥かにふんわりとしていて柔らかい。さらにベリリの実の甘酸っぱさが、口の中をさっぱりとさせてくれる。

 気付けば、あっという間にもう皿のケーキはなくなってしまっていた。

「会長、これは……」

「えぇ、食べてみて私も確信しました。これは売れますよ!!さぁ試作です、あるものはすべて使って構いません。何としてもこれと同じものを作り上げるのです。」

 この日からミルタ商会でケーキの試作が始まった。そして後々、ミルタ商会のケーキがとても有名になるのだが……それはまた別のお話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...